舞華

□第八抄
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「っ!!…なに!?」

 すると突然、山の纏う気が変化した。

 まだ少しわたがまっていたいりすたちの苦しさが完全になくなった。

 それと同時に、山の中からたくさんの妖怪たちが溢れ出て来た。

「蛮…、行こう!」

 白霊山の中に。

 最期の闘いに。

「あぁ…」

 蛮骨は後ろにいたいりすの方に振り返り、手を力強く握った。

 そして、いりすの髪に蛇骨の簪を挿した。

「え?」
「蛇骨の形見分け」

 いりすは簪の挿し込まれた辺りに手をそっと持って行き、優しく触れた。

「蛇骨……」
「蛇骨もお前のこと、気に入ってたからな」

 からっと爽やかに蛮骨は笑顔を見せた。

「蛮…」
「そんな情けない顔するなよ…」

 蛇骨や花珠たち七人隊と過ごした日々の温かさ、楽しさ、幸せ、色々な思い出がいりすの頭を通り過ぎていくと、自然と眉が垂れて、笑顔がうまく作れなくなってしまった。

 そして、その目に涙が溢れ出てくる。

「いりす…」

 蛮骨はいりすの頬を両手で包み込み、零れ落ちる涙を、指を滑らせて優しく拭う。

 そのまま顔を近づけていくと、唇を重ねた。

 いりすは目を閉じて、それを受け入れると、蛮骨の首元に両腕を回した。

 深く――

 深く――

 交わす口づけ。

 それはもう最期を予期した現し世への別れの口づけでもあった。
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