舞華

□第九抄
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 いりすと蛮骨は犬夜叉を追いかけて山の中へと向かった。

 その道中、いりすは視界にある人物を捕らえた。

「いりす?どうした?」

 様子のおかしいいりすに気づいた蛮骨は声を掛ける。

「・・・・、蛮、犬夜叉のところに先に行ってて」
「ん?」
「ちょっと……」

 いりすは胸に手を置いて目を伏せながら、蛮骨にどう言おうかと考える。

「分かった」
「え?」
「俺はいつでもお前の傍にいる」

 それは片時も離れないというわけではなく、気持ちのことを言っていた。

 いりすはそれが分かって嬉しかった。

 そうなのだ。

 いりすも感じていた。

 自分たちの死に場所は一緒だと。

 少し離れてしまったとしても、二人の死の道は繋がっていると、目には見えない確信があった。

 もう、離れることに怖れはなかった。

「ありがとう」

 もう一度だけ、二人は口づけを交わして、そしてそれぞれの方向へと向かって行った。







 白霊山の結界が完全に消滅した。

 その山の草木は枯れ果てて、山肌が丸見えになっている。

 妖狼族の鋼牙と物の怪の背に乗ったかごめがその山を上がっていた。

「四魂のかけらの気配だわ」

 かごめが鋼牙に伝える。

「山の下の方と…、中腹のあたりから」

 中腹の辺りから感じるかけらの気配の方が大きいことまで掴むと、鋼牙はそれが奈落の居場所だと確信し、かごめに案内するように言いながら駆けている足を速めて行った。

(あと、もう一つ……)

 かごめは心の中で呟いた。

 そのかけらの気配は、鋼牙が向かった方向から感じていた。

(もしかして…)

 かごめは表情を引き締めた。



「かごめっ、ここなんだな。奈落がいるのは…」
「うん、この奥から…、四魂のかけらの気配がする」

 そう言うと、かごめは見つけた山の割れ目の中に入った。

「っ!!」

 かごめに続いて入った鋼牙と子狐妖怪は、中に入ったすぐに人影に気づいて驚いた。

 だが、かごめは平然として、怖れることもなくその人物に近づいて行った。

「いりすさん…」
「・・・・・」

 いりすの姿を視認した鋼牙は咄嗟にかごめの前に立ちはだかった。

 警戒する鋼牙にゆっくりと近づくと、いりすは真っすぐに見つめて言った。

「大丈夫。闘う気はないから…」
「っ!?」

 鋼牙はいりすを改めて見つめた。

 確かに、少女は闘う気を纏っておらず、むしろ無防備と言ってもいいほどの身の構え方だった。

 鋼牙はその言葉を信じると、自分の警戒を解いた。

「ねえ、あなたについて行ったら、奈落に会えるの?」
「え?」

 いりすから意外なことを聞かれてかごめは一瞬戸惑った。

「どうして?」

 何を思って、奈落に会おうとしているのか、そのいりすの真意をかごめは知りたかった。

「七人隊…、皆、いなくなっちゃった……」
「え?」

 いりすは髪に挿した簪に触れる。

(あれは…蛇骨の…。じゃぁ、犬夜叉が…)

 かごめは見覚えのあるそれを誰が付けていた物かをすぐに思い出し、その簪をいりすが着けていることがどういうことなのかを理解した。

「私の大好きな七人隊……」

 それから、帯に差した扇を取り出した。

 花珠に選んでもらった扇を広げて、愛しそうにそれを見つめるいりす。

「みーんな…、死んじゃった……」
「いりすさん…」
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