舞華
□第九抄
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「でもさ、私の居場所は昔も今も蛮なんだ…」
(いりすさん…)
かごめは、いりすが蛮骨を想う時だけ雰囲気が戻り優しくなることを見逃がさなかった。
「生きる時も、死ぬ時も、幸せな時も、不幸せな時も、どんな時も私は蛮とともに在りたい……。ずっとそう思って生きてきた」
蛮骨に拾われて七人隊に加わったあの時から。
「だからっ!七人隊の!花珠のっ!蛮のっ!!皆の仇であるあんたの手足になる気なんざさらさらないんだよっ!!」
いりすがそう言い放つと奈落は眉を少し動かし苛立った様子を見せた。
「それならば、お前の四魂のかけらも返してもらおうかっ!!」
奈落が肘を曲げて腕を上げると、そこから隠し武器のように鎌を現して、いりすに向けて振った。
「いりすさんっ!!」
かごめが叫ぶ。
いりすは奈落のそのひと振りを跳びはねて回避する。
だが、二度目はないなと直感しながら、同じ場所へと片膝をついて降り立った。
その眼下ではかごめがほっと安心している様子が窺えた。
(本当に不思議な奴だ…)
いりすは思った。
そして、そう思ったと同時に自分の首元に勢いよく自分の指を突き刺した。
「え?」
「なっ!?」
自分の頭上で起こったことにかごめは目を瞠り、その少し離れたところでずっと見ていた犬夜叉は驚きの声を上げていた。
「なんのつもりだ?」
奈落もいりすの真意を見定めていた。
「犬夜叉っ!!刀を取れっ!!」
突然にいりすは犬夜叉に声を上げた。
「早くっ!!“風の傷”を放ってっ!!」
「いりすさん!!」
いりすが何を考えているのか、どうするつもりなのか、犬夜叉にもかごめにも全く考えが読めないでいた。
だがいりすの眼に迷いはなかった。
その喉元に自分の指を突き刺したまま、この状況を動かす確信と覚悟を持っていることだけは分かった。
犬夜叉はいりすの思いを受け取り、そして、自分に絡みついていた肉の管をその爪で引き裂くと、自分の刀を掴んだ。
「かごめ…」
「え?」
犬夜叉が動き出すといりすはしゃがみこんでかごめに話し掛けた。
「まさかっ」
いりすが犬夜叉を動かしてこの状況をどう打破しようとしているのか、奈落は思案していた。
犬夜叉が動き出し、いりすがかごめに話し掛けたのを見て、ようやく彼女の考えを読み取ることができた。
それに慌てて、腕の鎌をもう一度振り下ろそうと動き始めた時、犬夜叉が“風の傷”を放った。
“風の傷”が放たれたのと同時にいりすは自分の首から指を抜くとその指に挟んだ四魂のかけらをかごめに渡した。
「いりすさん!!」
犬夜叉が放った“風の傷”でかごめを締め付けていた肉の管の力が弱まり、その一瞬でいりすに差し出された四魂のかけらを掴み取ることができた。
かごめは地の底へと落ちていくいりすのことも掴みたかったのだが、かけらの効力を失くした彼女の身体は少しずつ崩れ散り始めていて、その手を掴むことができなかった。
「かごめ…、私の四魂のかけらを…あんたに託す……」
「え…?」
崩れ落ちながらも最期の最期までいりすは自分の思いをかごめに伝えた。
「あんたと…、犬夜叉に……希望を、託した……か…ら……」
かごめたちに奈落を討ち果たす希望を託しながら、いりすは、蛮骨と花珠の亡骸とともに白霊山の谷底にと吸い込まれて逝ったのだった。
「いりすさーーーんっ!!!」
かごめはいりすに託された四魂のかけらを固く握りしめながら、闇の中に消えていくいりすのことを想い、悲痛に叫んだ。