舞華

□第十抄
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 少女が一人ぽつんと立っている。

 そこは闇の中だった。

 何ひとつ見えない真っ暗な闇。

 少女・いりすはその闇をじっと見つめたまま、動かないでいる。

(皆…、どこ……?)

 いりすは大切な仲間のことを思い出していた。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 そんな自分の置かれた状況に不安が込み上げてくる。

(また……)

 また、会えないのではないか。

 また、さ迷い続けなければいけないのではないか。

(独りは…嫌だよ……)

 不安が身体を震えさせる。

 それを抑えたくて、いりすは自分の両腕を掴み、その場にしゃがみ込んだ。

「蛮……、会いたいよ…」

 会って声が聞きたい。

 その腕に抱き締められたい。

 もうずっと片時も離れたくない。

「蛮…」
「いりす」
「っ!!」

 しゃがみ込み腕を掴んでうずくまるいりすの背後から愛しい人の声が聞こえて自分の名を紡いだ。

 そして優しく、だが力強く自分を抱き締め包み込んだ。

「お待たせ、いりす」

 いりすは顔を上げると、振り返って自分を包み込む人物を見た。

「蛮っ!!」

 蛮骨の姿を確認すると、身体ごと向き直って勢いよく飛びついた。

「やっと…、やっと会えた」
「あぁ」

 ここは死の世界。

 黄泉の世界。

 もうなんの不安も起こることのない闇の世界。

「いりす姉…」
「花珠」

 花珠に呼ばれて目の前を見ると、そこには七人隊が揃っていた。

「私たち、これでやっと落ち着けるね」

 皆もいることに安心したいりすは、蛮骨の方に視線を戻した。

 そして、蛮骨の頬に両手を添えて包み込むといりすの方から蛮骨へと迫っていく。

 甘い口づけ――

 それは幸せの始まりの口づけだった――。
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