麗死蝶
□第七抄
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「鍛錬はそこまでだ。依頼が入った。全員大広間に来い。大兄貴が待ってる」
「分かった」
そこに煉骨が現れて、用件だけを言うとまた屋敷の中に戻って行った。
蛇骨は“蛇骨刀”を緩めて麗骨を解放した。
「今回は、妖怪退治を頼まれた」
全員が集まると蛮骨は開口一番に依頼内容を伝えた。
「妖怪……」
麗骨が小さく呟いて、折り曲げた人差し指をあごに当てて考え始める。
その様子を煉骨がじっと見つめる。
「頼んできたのはその土地の大名だ。道中を行く者たちを食らうらしく、怯えているんだとよ」
考え込んでいた麗骨が蛮骨の方に視線を送った。
「今回は妖怪退治だから八人全員で向かう。話によると一匹ではないらしい」
だから、蛮骨と麗骨、睡骨と蛇骨と霧骨、煉骨と銀骨と凶骨と三方に分かれて向かうと言う。
「それは、煉兄の考え?」
「あぁ。そうだ」
「・・・・・」
依頼内容と退治方法を聞いて質問をした麗骨は、またじっと黙って考える。
「なんだ?異存があるのか?」
煉骨が少し強めの口調で麗骨に訊く。
「ん?あ、いいや。そうじゃないんだ…」
「じゃあ、なんなんだよー?」
麗骨のはっきりとしない態度に蛇骨は早く退治しに行きたくて焦れて次を促す。
「とうとう<七人隊>を厄介に思い始めたのだなと思って…」
「ん?どういうことだ?」
そこで蛮骨は麗骨の言葉が気になった。
一同もどういうことなのか気になっているようだが、煉骨だけが冷静に麗骨の話の続きを待っている。
麗骨もその煉骨の様子には気づいており、食えない奴だなと思いながら、話を続ける。
「妖怪の退治を生業にしている者たちがいると聞いたことがある。だが、そちらを差し置いて私たちに依頼してきたということは、妖怪によって殺されてもいいということだ」
なるほどと一同が納得の色を見せる。
「だいたい何処にいるのかも分からないのだろう?もっと慎重に情報を集めてからするべきだ」
「だが、今日中に片付けて欲しいと言われている」
「……だから、厄介払いしようとしてるって言ってるだろう……」
麗骨の考えを平然と黙って聞いていた煉骨が依頼者の旨を伝えると、麗骨は小さく苦く呟いた。
「ったく…」
少しだけ不穏な空気が漂う中、蛮骨が立ち上がると麗骨の元まで近づき、その拳を頭に軽く落とした。
「心配性だな…。俺たちは大丈夫だ。そんな簡単にくたばってたまるかよ」
そう言って爽やかな笑顔を見せる。
「・・・・・」
麗骨はどうしても蛮骨のその笑顔に弱く、言い返せなくなる。
「よし!てめえら、行くぞ!」
語調を変えると仲間たちを鼓舞する。
皆、おうと応えると蛮骨について歩き始めた。
「……もう少しだけ、考えて欲しいものだな……」
麗骨は誰もいない大広間で眉を垂らしてため息を漏らした。
「おい、こら、行くぞ!」
「っ!!」
そこに障子越しに顔を覗かせて蛇骨が麗骨を呼んだ。
「そんなに気にするな。蛮骨の大兄貴だって、妖怪相手に甘く見ちゃいねえよ」
「……分かってる…」
そう頷くと、麗骨は一抹の不安を抱えながらも蛇骨とともに屋敷を出た。
∴∴∴
依頼で言われた森に到着した<七人隊>は作戦通りに三方に分かれて妖怪の気配を探って行く。
「なー、お前、最近、蛇骨と仲がいいな?」
腰に差している“麗死蝶”に手を置きながら、周囲の気配を探っている麗骨に蛮骨は唐突に声を掛けた。
「突然、なんだ?」
「あれか?やっぱり付き合うのが楽っていうやつか?」
先日、話している中で麗骨は蛇骨のことをそう言っていた。
だから、蛮骨も一緒に居易いのだろうと分析してきたのだった。
「別に。ただ、鍛錬にも付き合ってもらっているし、髪を結うのとか……色々と頼る機会があるから一緒にいることが多く感じるんじゃないのか?」
どうして蛮骨はこの状況で世間話をすることができるのだろうか。
相手は妖怪。
何匹いるのかも分からない。
何処にいるのかも分からない。
何も分からないというのに。
「ふ〜ん」
人に尋ねておきながら、思ったような返事ではなかったからなのか、蛮骨は気のない返事をした。
(ったく…何を考えているのか……)
麗骨はため息を漏らした。