麗死蝶
□第八抄
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昨晩は痛み止めの薬が効いて、一足先に眠りに就いてしまった麗骨だったが、しばらくして苦しみ呻き出した。
蛮骨はいつものことだと言って、麗骨の手を優しく握った。
そうすると、少しして苦悶の表情が和らいで、また安らかに眠っていった。
毎晩こんな様子だと蛮骨は云った。
「そこまでお前のことを知ってる大兄貴と、夜、褥を共にしていて何もなかったのか?」
「ないよ…」
麗骨は目を伏せて小さく答えた。
それは麗骨自身も気に掛けていることだった。
「そうか…、じゃぁ、俺にもまだ分はあるってわけだな」
「え?」
蛮骨とはまだ何も発展していないと分かった蛇骨はにやりと笑みを見せた。
そして、更にぎゅっと抱き締めようと、下腹部に回していた手を動かした。
その瞬間――、
「うわわわわわっ!!」
「っ!!?」
蛇骨の動かした手が、麗骨の腰に差してある“麗死蝶”に触れてしま、それから雷のような光が爆ぜて蛇骨を拒絶した。
麗骨には全く影響はなかったが、蛇骨の手は痛みと痺れを伴い、咄嗟に麗骨から離れて行った。
「あ、はははは。“麗死蝶”に嫌われちゃったね」
麗骨は蛇骨の反応が面白くて、心底笑ってそう言った。
目に涙を溜めながら、馬鹿にするなと蛇骨は憎まれ口を叩いた。
それから、もうすぐ朝餉の支度ができるからと言うと、先に屋敷に戻って行った。
「・・・・・」
蛇骨の背中を見つめながら、麗骨は眉を垂らして大きく息を吐いた。
『大兄貴と、夜、褥を共にしていて
何もなかったのか?』
麗骨は斧を片付けながら蛇骨のその言葉を思い返していた。
自分の身体を大事にしろと云う蛮骨。
自分は、蛮骨に満たして欲しいと思っているのだが、彼は自分を大事に扱おうとする。
昨晩、蛇骨に自分の過去を話した時もそうだった。
野盗たちの話を始めると、心配そうに見つめてくる。
そうやって、麗骨自身が自分を下卑に見ないように、心病んでしまわないように、護ろうとするのだ。
蛮骨は野盗とは違う。
温かみがあって、優しさがある。
だから、気にせずに思いのままに自分を抱いてくれていいのにと麗骨は思っていた。
これが愛しいという気持ちなのかどうなのかまだ分からないが、それでも蛮骨になら満たして欲しいとそう心から思っている。
「ふぅ〜」
麗骨はまた一つ大きくため息を吐いた。
∴ ∴ ∴
朝餉を終えると、食材などの備蓄が減ってきたということで麗骨は買い物を頼まれた。
<七人隊>に来てから依頼以外で初めての外出になる。
生まれてこの方、買い物自体もあまり行ったことがなかった。
記憶の片隅から両親と市に行って、あの血に塗れてしまった着物を買ってもらったことを思い出していた。
「ついでに紅でも買うか〜?」
蛇骨が楽しそうに麗骨に訊いた。
「男としているんだ。そんな物いるのか?」
だが、麗骨が冷静に答えるので、面白味のない奴だなと蛇骨は不貞腐れてしまった。