麗死蝶
□第十一抄
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そうして後を追いかけ蛮骨の部屋の前に到着すると、どうやら三人共が彼の部屋の中に入って居るようだった。
何があったのか。
何が蛮骨と蛇骨に血相を抱えさせるほどの重大なことだったのか。
麗骨はどういう状態であるのか。
そもそも、麗骨の正体は――。
自分の持っている疑問を晴らしていきたい。
そのことを蛮骨に今訊ねるのか、それとも麗骨と蛇骨のいない刻に訊ねた方がいいのか。
彼の部屋の襖の前に立って思案していた煉骨は、部屋の中から聞こえてきた声に衝撃を受けた。
彼の部屋の中から、女の声が聞こえてきたのだ。
驚きつつも煉骨は襖に耳を近づけて中の様子を更に探る。
どうやら、部屋の中では行為に及んでいるようだ。
しかし、この甘美な声を上げる女の声はどこかで聞いたことがあるような気がする。
男二人が会話している声が聞こえる。
これは、蛮骨と蛇骨だろう。
では、行為を受けているだろう女の声は誰だ。
この声は――、
(っ!!!)
煉骨は、その脳裏に雷が落ちてきたように衝撃的に閃いた。
(麗骨だ!)
これまで、男口調で、その声も低かったが、話している中でたまに出す高い声がこれに類似しているのではないだろうか。
いや、そうに違いない。
煉骨は持っていた疑問がより一層確信に近づいたので、この目で実際に見て確かめたくなった。
そうして、そっと少しだけ襖に隙間を開ける。
(っ!!!)
やっぱりそうだったのだ。
蛮骨と蛇骨に挟まれて麗骨がそこにはいた。
三人共、肌を露わにしていた。
そして、麗骨からは膨らみを持った胸が見えていた。
煉骨はそれを確認するとまたそっと襖を閉めた。
それからしばらくして、部屋の中が静かになった。
どうやら、行為が終わったようだ。
予測もあったが、なんという衝撃的じじつだろうか。
なんの意図もなく、ただ動けないでいた煉骨は、部屋の中が静まり返ったことに気づいて、ようやく自分の足を動かして自室へと戻って行ったのだった。
そうしていつの間にか朝を迎えていた。
昨夜の出来事を思い起こしていた煉骨は、その事実をこれまで知らされなかったことになんだかすっきりしない気分だった。
(顔でも洗おう)
煉骨は、とりあえずすっきりしようと、水溜場の方へと向かい始めた。
∴∴∴
暖かい朝の日差しが優しく頬を撫でて、小鳥のさえずりが耳をくすぐっている。
麗骨は、これまでに感じたことのないほど、とても穏やかに朝を迎え、目覚めた。
これまでの苦しみや悩みが嘘のように、今、頭の中がとてもすっきりとしている。
「・・・・・」
昨日まで色々な感情や思いが滅茶苦茶になっていたというのに、どうしてこうなったのだろうかと、寝惚けた頭を目一杯に回転させて思い出す。
そして、目に映った人物に気づいた。
目の前には、まだ穏やかに眠っている蛮骨がいた。
背後からも寝息が聞こえたので身体を巡らせると、蛇骨がいた。
二人の姿を視認して、そこでやっと昨日の出来事を思い出した。
(私…、やっと…、)
やっと、蛮骨に満たしてもらえた。
共にいた蛇骨にも。
昨夜の行為を思い出すと恥ずかしさで顔が火照ってくるが、それでも、幸せな気持ちには変わらなかった。
「くす」
むくりと身体を起こした麗骨は、まだ目覚める気配のない二人に微笑みを見せた。
それから、二人を起こさないようにそっと立ち上がると、顔を洗おうと水溜場の方へと向かって行った。
麗骨は森の澄んだ空気を感じながら、水溜場へと辿り着いた。
そこには川から汲んできた水を溜め置いていて、そこから木桶に半分ほど入れると、手でその水を掬って顔に浸した。
冷えた水が、気持ちを引き締めてくれるようだった。
今日から再出発だ。
狂乱した女の<麗死蝶>から、男の<七人隊>に戻らなくてはならない。
もう一度、水を顔に浸す。
暗く澱んだ自分はもう捨て去らなくては。
蛮骨と蛇骨の想いを改めて心に留め置き、変わっていかなくてはと麗骨は思っていた。
その時――、
「っ!!?」
敵意や欲情とは違う殺気を感じたのだが、避けるには間に合わず、麗骨は背後から捕まってしまった。
背後から伸びてきた腕は、一方は麗骨の両腕を縛るように、もう一方は胸元へと這ってきた。
そして、寝間着の重ねの隙間に入り込んだ手が、胸の膨らみを確認するかのように撫でる。
その瞬間、麗骨の全身を悪寒が駆け抜けて行った。
(気持ち悪いっ!いやっ!!)
悪寒で全身に力の入った麗骨は一旦、目を固く瞑ったが、すぐに開くと首を巡らして、誰なのか確認した。