麗死蝶
□第十三抄
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ごめんね、“麗死蝶”……、
あなたをおいて逝ってしまって……、
ごめんね……、
麗骨は真っ暗闇の中で膝を抱えながら心の中で自分の大切な相棒に対して謝り続けていた。
出会ってからというもの、いつでも自分のことを優先に考え護ってくれていたから、感謝してもしきれない。
そして、それはそれの意思で自分のことを愛しい人と同じ場所へと葬ってくれた。
だからこそそれに詫びを入れずにはいてられない。
それというのも、黄泉の国へと入ったものの、その愛しい人たちと出逢えずにいるのだ。
すぐにでも会いたい。
温かい言葉を言って欲しい。
抱き締めて欲しい。
そう思うのに、出逢えないのだ。
別の黄泉に入ってしまったのか。
死んだ場所が違ったからなのか。
誰もいないから寂しいと思う。
愛しい人に逢えないから淋しいと思う。
だから、“麗死蝶”に傍に居て欲しいと思ってしまう。
だから、おいて逝ってしまったことが申し訳ないのだ。
麗骨は一層膝を抱え込み握り締める。
寂しさを紛らわせるために――。
∴ ∴ ∴
「う〜〜〜ん」
青年はある城が見渡せる山の高見に座り込んでいた。
その手には紙と筆があり、何か文を書こうと考え込んでいる様子だった。
「あーーっ!ダメだ!」
そう言って一枚の紙をぐしゃりと握り潰すと、筆を持ったまま額に手を当てて頭を抱えた。
「蛮骨様」
「あぁ?」
そこに、寸法が身体に合致した黒い戦闘着姿の少年が、青年の背後に姿を現した。
「お仲間をお連れしました」
少年に言われて、背後を振り向くと、大型の機械仕掛けの車に三人の男たちが乗ってこちらにやって来ていた。
「蛮骨の大兄貴〜!」
女性ものの着物を纏い、髪を結い上げ簪を挿している青年が元気よく呼び掛けながら手を振っていた。
「おぉ!」
青年も爽やかな笑顔を見せて彼らに応える。
大型の機械仕掛けの車が意思を持って止まった。
そこに乗っていた三人が降り、青年の前で膝を折って身を低くした。
「大兄貴、これで全員揃いました」
頭巾を被り、両頬から瞼の上まで紫色の線が入った顔の青年が丁寧に言った。
彼はそのまま、他二人の仲間がすでに殺られてしまったことを告げる。
「殺られちまったんじゃ、しょうがねぇ」
青年はそのことをすでに知っていたようだ。
「それより、煉骨!お前、頭良いから字知ってるだろう?」
頭巾の青年に持っていた筆を投げて渡すと言った。
「“昔の借りを返しに参上する。首洗って待ってやがれ”みてえな感じ」
「お礼参りかよ?」
簪を挿した青年が表情を明るくして訊いた。
「あぁ、あの城だ」
青年は立ち上がるとその高見から城を見下ろした。
「あの城の奴らが俺たちの首を討ちやがったんだ」
忌々しそうな声音で拳を握り締める。
その様子を簪を挿した青年がじっと見つめていた。
彼らの正体は十数年前に名を馳せていた<七人隊>。
極悪非道と怖れられた殺し屋集団だ。
<七人隊>はその昔に討ち果たされたのだが、ここ最近になって、彼らの魂を鎮めようと建てられた“七人塚”が雷に打たれたわけでもないのにまっぷたつに割れてしまったと云う。
彼らは亡霊として復活したのだった。
城を忌々しく見下ろしている青年はその首領である蛮骨。
その彼の様子を見つめていた簪を挿した青年は蛇骨。
頭巾を被った青年が煉骨。
羅刹のような睡骨。
そして、機械仕掛けの車と化しているのが銀骨。
先程、煉骨が報告した凶骨と霧骨はすでにあの世に戻って逝ってしまった。
それで七人。
だが実は、<七人隊>にはもう一人いた。
同じ墓に葬られなかったあと一人の<七人隊>。
(麗…、お前は今、何処にいるんだ?)