合法ドラッグ
□drug6
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「よぉ、遅刻小僧」
「小僧ってなんですか?」
「給料引かれるぞー、こわーいおにーさんに」
風疾が遅刻して降りて来たところ、斎峨がからかっていた。
斎峨の云う怖いお兄さんとはもちろん、花蛍のことだ。
斎峨は花蛍の本性を知らない純粋な少年、風疾に色々と話して楽しんでいる。
そこへ花蛍が現れた。
「ちょっと話があるんだけど、<事務所>に来てくれる?」
斎峨のおじさんギャグとやらを軽く流して花蛍は風疾に声を掛けた。
要件は<もう一つのバイト>のようだ。
「風疾って、単純だよね」
私は斎峨の隣で腕を組んで立って呟いた。
「可愛いもんじゃないか、そっちの方が」
私の呟きを聞いて、斎峨が意味深に返事してきた。
「ん?どういう意味よ?」
「ん?そのまんまの意味だ」
そのサングラスの奥ではどんな眼差しをしているのか、全く見えないので私は彼の言いたい真意が分からなかった。
そんな私の様子が可笑しかったのか大笑いをしながら斎峨は薬局の奥へと去って行った。
私の性格が黒いとでも言いたいのだろうか。
失礼な人だ。
そうしていると、風疾が<事務所>から出て来て、今回は一人で仕事ができるからと張り切っていた。
(本当に、単純だ…)
私は彼の様子を見て半眼になって思った。
そんな私の元に、風疾のあとに<事務所>から出てきた花蛍がやって来て言った。
「面白いよね?栩堂君って」
「というか、疑うことを知らないよね?」
私が率直にそう言うと、今度は花蛍が意味深な笑みを向けて来た。
「な、何よ?」
「ちょっとは、楽になったのかな?って」
「・・・・・」
突然に核心をついてきたので、私は恥ずかしくなって何も言えなくなった。
「やっぱり、花蛍って意地悪ね…」
私は色々なことを全て含めて花蛍にそう言った。
彼は笑顔を絶やさないままで薬局の中へと入って行った。
「あ、飛鳥、おはよう」
「おはよう、風疾。今晩…<仕事>なんだよね?」
「え?あぁ…さっきの見てたんだ?」
「まぁね」
私は、少し風疾から目を逸らした。
先程、花蛍と話した時と、そして今、風疾と話して、視えてしまったのだ。
今回の<もう一つのバイト>の様子が。
(また、視たくない時に……)
コントロールしきれていない部分が視せてしまう先見の映像。
今回は一応、風疾一人の<仕事>のようだ。
風疾の力でしか視えないからだ。
“見えない蛍狩り”。
「一人なの?」
私はワカッテいながら、白々しくも風疾に訊いてしまった。
「そうなんだ!!」
風疾は心底嬉しそうだった。
「今回はアイツがいないんだよ!!」
だけど、陸王は行くことになる。
「気を付けてね」
「おう」
風疾は満面の笑顔で頷いた。
* * *
今日一日の仕事も終わり、風疾は<もう一つのバイト>の方に向かって行った。
私はというと、なんとなくなのだが、陸王のいる部屋に向かった。
「お邪魔しま〜す」
何も考えずに、声を掛けつつも勢いよく扉を開けた。