合法ドラッグ
□drug6
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部屋の中では陸王は着替えをしているところだった。
「わぁ!ごめんなさい」
「いや、いい」
私は、驚いてしまった。
陸王の背中にはイレズミが描かれていた。
自分の力でなんとなくそれがあることは知っていたのだが、目の当たりにしてみると、それに何か力があるように感じられた。
(あれは……)
ただの予感でしかない。
だが、月湖さんに関係しているような気がする。
「なんだ?どうした?」
私は、陸王のイレズミの力に引き込まれそうな気持ちになっていたところ、彼に声を掛けられて弾かれたように正気に戻った。
「え?あ…、ううん。なんだか、陸王と話したくなって…」
「なにも楽しい話はないぞ」
「それでもいい」
そう言いながら部屋に入り、彼のベッドに座ると、風疾が<もう一つのバイト>に行っていることや、彼の単純な性格の話をしたり、少しだけ自分の話もしたりしてしばらく時間が過ぎて行った。
そうしていると、急に扉がノックされた。
現れたのは花蛍だった。
そして、陸王にも<仕事>が舞い込んできたのだった。
「いってらっしゃい」
私は陸王を見送った。
「風疾は、世話が焼けるね。会った時も、今も、これからも…きっと…」
そう言った私に陸王は不意に振り返って、少し微笑んだ。
「?」
「お前にもな」
陸王はそう言って、風疾の元へと向かって行った。
私は目を見開いて少しだけ驚いた。
そんな風に言われるとは思わなかった。
だが、私の心の中に何かが入り込んで来たような気がした。
鼓動が早くなった。
(これはなに?)
分からなかった。
だけど、不安ではなかった。
怖くもなかった。
少し、心地いいとさえ思ってしまった。
「風疾は…大丈夫かな?」
自分の気持ちを誤魔化すかのように、私は自分の中の話題を風疾に戻して、そう呟いた。
「分かってるでしょう?飛鳥ちゃんには」
「っ!!」
陸王を見送るために外に出た私の傍らに花蛍がやって来て、私に声を掛けた。
「うん。大丈夫ではないね…」
風疾も、陸王も。
***
「ん、あれ?なんで俺、<みどり薬局>に戻ってんだ」
「陸王が助けてくれたんだよ」
風疾のベッドの傍らに座って控えていた私が答えた。
<もう一つのバイト>で、足を取られて真冬の池に落ちた風疾を陸王が助けて、遠い道のり、持ち帰って来たのだ。
寒中水泳をして気を失った風疾は、しばらく自分のベッドの中で眠っていたが、今やっと目を覚ました。
私の返事を聞いた風疾は間抜けな表情から驚きの表情に変わっていった。
「え……、ええっ!!!!!」
ちょうど同じタイミングで陸王が熱いシャワーを浴びて身体を温めて出てきた。
「花蛍が行けって言ったんだよ」
また大声を上げる風疾を諫めるかのように、陸王はおざなりに言った。
「そうよ!それに、蛍と一緒に溺れ死んでたかもしれないんだよ!!」
「うぅ…」
そんなやりとりをしている間に、花蛍が蛍を回収する準備をし、そして、部屋の電気を消した。
<仕事>に行く時に風疾に預けていたペットボトルの蓋を開けると、彼の口に近づけた。
その口の中から、綺麗に光る見えない蛍たちが花蛍の持っているペットボトルの水の中へと移って行き、その中でまた光っていた。
満月に照らされたそれは、うっとりと見惚れるほど綺麗に光っていて、幻想の世界にでものめり込んでしまうようだった。
一応、仕事は成功。
「陸王と折半ね」
「えええええ」
報酬がもらえることに大喜びしていたのも束の間、陸王と半分だと言われて、すぐに落ち込む風疾だった。
私はころころと変わる彼の表情にまた笑みがこぼれ出てくる。
「風疾、じゃぁ、温かくして寝るんだよ」
「え?あ…、うん…」
だって真冬の池を泳いでしまった風疾。
私はまた視えてしまった。
その中身は黙ったままで、陸王にもおやすみと伝えて彼らの部屋を出ようとした。
「飛鳥、」
「ん?」
すると、陸王が部屋を出て行く私の後ろをついて来ていて、本当に小さな声で呼び掛けてきた。
「楽になったか?」
「え?」
陸王の方に振り返った私は、彼の言葉に目を見開いてしまった。
驚いて、すぐに答えられなかった。
だが、彼の眼を見て慌てて言った。
「うん。・・・ありがとう」
その言葉に尽きる。
というか、その言葉しか出てこない。
本当に、ありがとう。
私は笑顔を見せて、自室へと戻って行った。