合法ドラッグ
□drug7
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「だめよ!絶対にだめっ!!」
私は大声を荒げた。
それは、花蛍と斎峨が一緒に<もう一つのバイト>の依頼を風疾に持って来たことから始まった。
風疾が昨夜の<仕事>の最中に真冬の池に落ちてしまったことが気掛かりで、私が様子を見に行くと、陸王は<みどり薬局>の方の仕事に向かうところで、風疾はというとベッドに寝たままで起き上がろうとしないでいた。
私は、自分の力で風疾がそうなっているだろうな、ということは予想していたのだが、案の定、39度もの高熱にうなされていた。
陸王に看病を頼まれた私は、共有のキッチンへと向かってお粥を作ってから彼の部屋に戻り、それからずっと傍で様子を見ていた。
お粥を食べるために身体を起こすも、その動作すらもだるそうにしている。
私は心配でずっと眉間に力が入りっぱなしだった。
「・・・・・」
「ん?飛鳥、大丈夫だよ。ただの風邪だから…」
「うん。分かってる」
そういうことではないのだ。
もう一つ、先見していることがある。
今日、花蛍が<もう一つのバイト>を風疾に持ってくるのだ。
そんな風に思っていると、風疾の部屋の扉がノックされた。
(ほら、やって来た…)
私は肩から息を吐いた。
風疾は普通に応答し、やって来た花蛍と斎峨を招き入れた。
39度もの熱を出しているというのに、花蛍は<もう一つのバイト>の話を彼に持ち掛けた。
「やります!やらせてください!」
予想通り、張り切って返事をする風疾だが、やりたい気持ちとは裏腹に身体がついていっておらずすぐにベッドに伏せてしまう。
「身体が頭についてってねえな、ボウヤ」
斎峨はただからかうだけだった。
「風邪だよ。安静にしてないと」
持ち掛けてはみたが、やはり無理そうだと目の当たりにした花蛍は依頼を断っておくと言っていた。
花蛍も身体を心配してくれているというのに、風疾はそれでもあきらめきれないでいる。
「だ!だったら明日やります!明日なら熱も下がってると思うし!」
「それがねぇ、今日しかだめなんだよ。今日で終わりなんだよ、映画…、」
花蛍が苦笑気味に答える。
「今回のお仕事は映画館に行って映画を観なきゃなんねぇんだよ。ボウヤの状態じゃとても無理だろ」
「無理じゃないです!!」
斎峨に<仕事>の中身を教えられ、それでも観るだけなら何とかなると食い下がるが、やはり意気込みに反して身体はついていっていない。
そこで、花蛍が風疾の目の前に指を一本立てて見せた。
「これ、何本に見える?」
「2、いや3本?」
「大人しく寝てろって!」
熱でぼやけてちゃんと見えていない状態で、斎峨が笑ってやめるように言うが、それでもやると言う風疾。
「んーーー」
珍しく花蛍が困ったような笑顔を見せて考え込んだ。
「・・・・・」
そして、黙って見ていた私に視線を動かしたかと思うと、急に私の手を掴んで風疾の手に重ね合わせた。
「え?なに?花蛍?」
「何本に見える?今度は飛鳥ちゃんを通して視て」
風疾は目を閉じた。
そして、しばらくして静かに答えた。
「2本」
「っ!……、」
その通りだった。
花蛍は指を2本立てていて、風疾は私の目を通してその指を視たのだ。
「どうしてもやりたい?」
「はいっ!!」
花蛍は話を進めていく。
「じゃぁ、飛鳥ちゃんと二人でね」
「えっ!?」
私は驚いてしまった。
そうして冒頭のやりとりに戻って行く。
「だめよ!絶対にだめっ!!」
「だめかい?今の栩堂君の状態から言って飛鳥ちゃんが適任だと思うんだけどな〜」
花蛍が意地悪い笑みを見せた。
「いやよ!風疾は病人なのよ!私は行かないわよ!」
ここに来て、初めて声を荒げている。
私は今回の<仕事>をどうしても止めたい。
視えた先は、風疾を身体だけでなく気持ちもしんどくさせてしまうし、陸王だって……。