合法ドラッグ
□drug7
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「風疾、今回は諦めて休んで!」
私は必死で風疾を見て言った。
だが、彼の眼はとてもまっすぐに私をとらえていた。
「嫌。俺行くよ。金、いるし」
「っ……」
* * *
結局、風疾は陸王と共に行くことになった。
「どうして…、なんで…」
私は、<仕事>に出て行って家主のいない風疾たちの部屋に残ったまま呟いていた。
「風邪よりもっとつらく、しんどくなるだけなのに?」
「そう……だね…」
でも、それは二人とも知らない先見の話。
「君が<仕事>を選ぶように、栩堂君はどうしても<仕事>がしたいんだよ」
誰しもそれぞれに理由があって<仕事>をしている。
「花蛍の意地悪……」
「まぁね。僕は優しくはできないからね」
そんなことはない。
だが、意地悪いところばかりを見せるのだ。
私を彼らの部屋に残したまま、花蛍は部屋を出て行った。
二人が出掛けてから時間が経っている。
きっとそろそろ帰ってくるだろう。
ずっと風疾のベッドの傍らに座っていた私は、不意に立ち上がると部屋を真ん中で仕切っているパーテンションを開けて真正面にある陸王のベッドを見た。
そして、進み入ると彼のベッドに座った。
「ごめん…、ごめんなさい」
私が、風疾に付き添って行けば良かったことではあるのだが、この<仕事>を止めたくて断ってしまった。
――“バタン”
「っ!!」
自分の過ちに後悔していると、この部屋の扉が勢いよく開く音が聞こえてきた。
私は陸王のベッドから立ち上がり、半分開けたままのパーテンションの影から風疾のベッドの方を覗き見た。
陸王が息を荒くして気を失っている風疾を抱きかかえ、彼らについて花蛍と斎峨が部屋に入って来て、風疾をベッドに寝かそうとしているところだった。
「風疾っ!!」
私は、パーテンションの影から飛び出て、風疾の元へと駆け寄った。
気を失っているようだが、それでもとても苦しそうにしている。
熱で汗ばむ風疾の額を拭いながら、私の傍らで立ち竦んでいる陸王を見上げた。
彼は風疾の苦しむ様子を見ながら、苦い表情を見せていた。
陸王の様子を窺っていると、彼の視線が動いて、私のことを見つめた。
「っ……」
私は、一瞬、目を見開いた。
彼の瞳はこれまでに見たこともないほどに、固く鋭かったからだ。
初めて彼を怖いと思った。
そう思ってしまった途端に、私は目を伏せて次第に顔も俯けていく。
そうして私の視界は、苦しむ風疾の元へと戻って来た。
気持ちが落ち込んでしまう。
「っ…!!」
落胆していると、頭に大きな手が乗っかってきた。
そんなことをしてくれるのはただ一人……陸王だけだ。
私は彼の方を再び見上げて、目が合うと、陸王はすこしだけにやりと笑って見せて、それから部屋を出て行った。
退出する陸王を花蛍は追いかけて行った。
なんだったのか。
私は、自分の頭に手を当てて考えた。
陸王は何を思っているのか。
あの一瞬の笑顔は何を伝えたかったのか。
「それにしてもボウヤ、苦しそうだな」
「っ……」
私の背後から風疾の様子を覗き込みながら斎峨が呟いた。
「どうやら、陸王の記憶に当てられたみたいだよ」
そこへ、陸王を追って部屋を出ていた花蛍が戻って来て言った。
陸王は、映画を観ながら月湖さんのことを考えていたそうだ。
「それに映画の中でちょっと刺激するようなセリフもあったらしくてね」
「どんなだ?」
「“私はもう死んでいるのかもしれない。それでもあなたは私をまだ捜すの?”」
「そりゃまた、陸王に言ってるみたいだな」
私は黙って、二人の話を聞いていた。
月湖さん。
陸王が必死に探している人物。
花蛍と斎峨も力を以って捜しているというのに、なかなか見つけ出せないという。
「力の持ち主が絡んでいることは確かだよ」
花蛍が珍しく苦々しく言った。
「で、風疾は視ることができたの?“モノクロの映画から宝石の色”を視ることが……」
私は今回の<仕事>の本筋に戻って花蛍に訊いた。
「うん。赤だったそうだよ。“血みたいな真っ赤”」
「そりゃ、陸王の記憶の影響じゃねぇのか?あいつが最後に見たあの部屋…、」
「…かもしれない。でも成功報酬は払うよ。こんなに頑張ってくれたからね」
私はまた黙って、二人のやりとりを聞いていた。
風疾は頑張った。
頑張ったかもしれないが――、
「分からないよ…」
「え?」
不意に私は言った。