合法ドラッグ

□drug18
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「・・・・・」

 私は再び目を開けた。

 そして、その眼前は相変わらず真っ暗だった。


『人形……真っ暗な…とこ……人形……』


 波紀が熱のうわごとのように呟いていたことを思い出す。

「う…」

 血の臭いが強くなっている。

 それもそのはずで、意識を失っていたこの間に私の着ていた服にそれが染み込んでいた。

(気分が悪くなる……)

 血のねっとりとした感触もまだ慣れないが、私は上体を起こして重たい頭に手を当てた。

 まだ暗闇に目が慣れない。

 これだけ真っ暗だということは窓もないのだろう。

 今はいったい何時なのだろうか。

 そう思って、頭を支えていた手を離すともう一度目を凝らして周囲を窺った。

(っ!!!?)

 私は息を呑んだ。

 遠くに光を見つけたかと思うと、それは不気味に眼を光らせて人形だったのだ。

『あなた、私が見えるの?』

 可愛らしい高い声が頭に直接響きそう言うと、人形は私の目の前まで宙を飛んで近づいて来た。

「っ……」

 近づいて来たが、暗闇は濃く人形の全貌は分からなかった。

 ただただ不気味に眼が光っているだけだった。

『私、ステファシーっていうの』

 瞳の表情は変わることなく、人形が淡々と話し始める。

『ここで長い間ずっと独りぼっちだったから寂しかったんだよ』

 私は正気を保つことに精一杯になっていた。

『あなたに逢えたお陰で、私の力も戻ってきたようだわ』
(力…?)

 人形が意味深なことを言った。

 力を奪われていたとしたら、この人形は封印されていたということだろうか。

 私が思案していると人形は私の身体に寄り添い、そして不気味に顔をこちらへと見上げさせた。

『そう…。私、封印されていたのだ』
「っ!!?」

 心の中を読まれた。

『あなたの力は私の力によく馴染むみたいだわ…、ねぇ、だからさ…』
「・・・・・」

 頭の中に響き渡る人形の声が段々と低くなっていく。

 そして、最低音のくぐもったような声になると私に言い放った。


『あなた、ずっとここにいてね』


 その瞬間に悪寒が全身を勢いよく駆け抜け、私は咄嗟に人形を掴むと引き離し、這いながら出口を探した。

 少し進むと行き止まりだったが、指が通るほどの隙間を見つけたので、私はその壁に沿って立ち上がった。

 壁とは感触の違うそれを手の感覚だけを頼りに探っていくと、丸いでっぱりを見つけた。

 それは扉だったようだ。

 そのドアノブを回してその場を逃れて行った。

 出た先はどうやら廊下のようだが、そこも真っ暗闇だった。

 左右に首を回して周囲を窺う。

「っ!!」

 ほんの少し針の穴ほどの隙間から無数の光が差し込んできていた。

 私は救いだと思ってそこへと急いで向かって行く。

 だが、またしても行き止まりだったのだ。

 どれだけ探っても何も手に当たらない。

 ただの壁だった。

『ふふふふふ』
「っ!!?」

 振り返り見上げた先に、人形が宙に浮いて近くにいた。

『この壁の向こうは、今まであたなのいた処』

 人形の声はまた可愛らしい高い声に戻っていた。

(壁の向こう!?)

 私は怪訝に思った。

 そして、思い出していた。

 風疾に八つ当たりした後、水鳥さんと楽し気にしている様子を見て部屋に戻ろうとしたが、戻ることができなかった。

 何かに導かれるように、

 何かに操られているかのように、

 私は異様だと感じる壁の方へと進んで行った。

『思い出した?』

 人形の声が明るくとても楽しそうだ。

『初めて逢った時、あなたの力に魅力を感じたから、一人になったところこちらに来てもらったのよ』
「っ!?」

 初めて逢ったとはいつのことだ。

 そんなこと分かりきっている。

 私を金縛りしたあの不気味な瞳の黒い影。

「あの時のあれがあなたの正体だったのね…」
『ふふふ。あなたの力は極上だわ』

 人形が悦に入ったように話す。
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