合法ドラッグ
□drug3
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『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』
「はっ!!」
私は勢いよく目を開けた。
その視界は一面の暗闇だった。
夢見が悪かった。
過去の一場面を見たような気がする。
だが、それもうろ覚えではあった。
頭の中で忘れようと、消し去ろうとしているのかもしれない。
それでも耳にこびりついて消えない、止まない、あの言葉。
『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』
目を固く閉じ、耳を塞ぎ、現実世界から逃れようとしてしまう。
「・・・・」
少しして、寝惚けた頭も正気を取り戻し始めた時、止まることなくドアを叩く音がしていることに私は気づいた。
まだ、過去に気持ちを引っ張られていた私は、気だるげに身体を起こして扉まで歩いて行った。
先程は心配そうな表情を見せていたというのに、私が気落ちしていることが分かっているだろうに、構うことなく諦めずにドアを叩き続ける人物を、私は容易に想像することができた。
「なに?風疾?」
「あ、やっぱり寝てた?」
真っ暗な部屋の扉を開けると、眩しいくらいの光が入って来て、反射的に目を瞑ってしまう。
その眩しさに手をかざして遮ると、風疾が察して訊いた。
「あの…、大丈夫か?花蛍さんが例の仕事で…、俺たちと、あと飛鳥のことも呼んでいて…、」
寝ていただろうところを起こしてしまったことを少し気にしているのか、歯切れ悪く話しているのがなんだか面白かった。
私は、口端を吊り上げてくすりと笑って風疾に言った。
「大丈夫よ。行くわ」
そう言って、部屋を出ると、風疾と一緒に花蛍たちの待つ<事務所>へと向かって行った。
風疾が言っていた“例の仕事”とは<みどり薬局>ではない花蛍からの依頼される奇怪な仕事だった。
私たちはそれを<もう一つのバイト>と言っている。
それは、匿名から依頼されたモノなどを探し出して、花蛍に届けるというもので、一見して簡単そうな仕事ではなるが、大概、霊的、超常的なものが絡んでいて結構手間がかかるのだ。
そして、その依頼に失敗すれば報酬は一切なしという厳しい仕事なのである。
「やぁ、飛鳥ちゃん。よく休めたかな?」
<事務所>へと入ると花蛍が一応気に掛けた言葉を投げかけてくれた。
「えぇ。お陰様で。で?今回は誰が何をするのかしら?」
さっさと依頼内容を聞いて行動に移したい私は、花蛍を促した。
だが、彼は何か企んでいるような笑みを浮かべて私を見つめている。
そして、口を開いた。
「今回は、そろそろ打ち解けてきたと思うのに、三人で公園に行ってあるモノを捕まえて来てください」
「・・・・・」
淡々と述べたその言葉に、私は一旦、思考回路が停止した。
これまでにこの奇怪な仕事を私も受けてきていた。
一人だけで。
それは、心の奥底では何を考えているのか分からない花蛍からの少なからぬ温情であったのだ。
「ちょっと待ってよ!!」
とても驚いた。
まだ心の準備ができていない。
私は座っていたソファから立ち上がって大声をだしてしまった。
確かに、風疾と陸王と打ち解けてきているが、一緒にその仕事をするということは、自分の能力を教えるということだ。
彼らは、私の力を目の当たりにした時、どういう反応を見せるのだろうか…。
『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』
「っ!!!」
私は固く目を瞑って顔を俯けた。
また、不安が広がっていく――。
「大丈夫だよ。あの二人は」
「っ!?」
そんな私に、花蛍が声を掛ける。
私は目を開いて、花蛍の方を見た。
「でも・・・」
花蛍の言葉を聞いて、彼の笑顔を見ても、私の不安は拭えなかった。