合法ドラッグ

□drug4
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「猫捕まえましたーー!!」
「ただいま」

 依頼物である“猫”を無事に捕まえることができた私たちは<みどり薬局>に帰って来た。

「おかえり」

 <事務所>に“猫”を連れて戻ると、花蛍が迎えてくれた。

 その彼の膝を枕にして大男の斎峨がサングラスをかけたまま、横になって寝ているのを目の当たりにした瞬間、幼稚な風疾は動揺して固まってしまった。

「あ、このまぐろは気にしないで、どうぞ」

 そう言って、花蛍は私たちに座るように促した。

「耳の後ろと頭としっぽの先が黒くて、目が金色。確かに捜していた猫だね」

 この“猫”は花蛍の依頼者が捜していた依頼物に間違いなかったので、私たちは成功報酬をもらえることになった。

 隣で風疾は大喜びしている。

 そこで風疾は視線を少し横に移すと、私たちに訊いていた。

「そのキャリーバッグ、使わなかったの?」
「“猫”がこいつに懐いて離れねぇからな」

 今も尚、風疾の膝の上でくつろいでいる“猫”を指差しながら、陸王が答えた。

「ほんとだ。栩堂君、上手だね、猫じゃらすの。飼ってたの?猫」
「いえ。でも猫みたいなヤツとはずっと暮らしていたから」

 “猫”をあやしながら風疾は花蛍と話している。

 だが――、

「猫みたいなひと?」

 花蛍にそう突っ込まれた途端に、風疾の表情が強張った。

「・・・・・」

 私は、そんな風疾の表情を初めて見たので、心の中で少し驚いていた。

 いつも明るく、そして世間ずれして少し抜けている印象しかなかったのだが、彼にも詮索されたくない過去があるというのだろうか。


ずっと風疾の傍にいたのはあのヒトだ—―…



 私は、望んで視たくて視たわけではないが、風疾にとって大切な存在の面影を脳裏に映し出した。

 そうしている横では、相変わらず“猫”が風疾から離れたがらず、花蛍が一晩預かって欲しいと言って、風疾を自室へと帰した。

「栩堂君も色々あるみたいだね」

 花蛍が私と陸王に向かって、意味深にそう呟いた。

「・・・・・」

 私は何も言わないで陸王を残して、<事務所>から出て行った。

 だが、すぐには部屋の方へとは向かわずに、<事務所>の扉に背を預けて、天井を仰ぎ見た。


陸王にも大切なヒトがいる――…



 皆、何かしらの過去があって、それに苦しみ、悲しみ、つらくなる。

 私も。


『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』



「っ!!」

 また、固く目を瞑る。

 そして、そっと目を開くと、自分に視えている少し先の未来のことを呟いた。

「あの“猫”はおまけつき…」

 自分自身の未来は視ることができない。

 だが、他人の未来は視えてきてしまう。

 私はどこまで今回の<もう一つのバイト>をすればいいのだろうか。

 これ以上、彼らと一緒にいれば、彼らにとって触れられたくない部分に触れてしまうことになる。

「・・・・・」

 実はそれを花蛍に訊きたかったのだが、なんだか陸王と二人で話したい様子だったので、私は退出したのだった。

 その時、背を預けていた扉が開いた。

「あ…」

 考えごとに集中しすぎて、全く気づけなかった私は開いていく扉と共に身体が倒れていってしまった。

「おい」
「ん…」

 尻もちをつくかもしれないと、身構えて目を瞑っていたが、床にお尻を打ち付ける感触はなく、寧ろ、がっしりと両脇を捕まえてもらい、背も誰かに寄り掛かっている感じがした。

 そうして恐る恐る目を開くと、その眼前には陸王の顔が映っていた。

「きゃあっ!」

 倒れる私を支えてくれたというのに、驚きで咄嗟に叫び声を一つ上げてしまった。

「なんなんだ…」

 陸王は呆れた表情を見せていた。

「ごめんなさい!ちょっと扉にもたれて考えごとしてしまっていて…」
「あんまし、根詰めるなよ」
「え?」

 陸王は片眉を顰めると苦笑しながら大きなその手を頭の上に乗せて私にそう言うと、自室の方へと戻って行った。

『根を詰めるなよ』

 私は、陸王の手が乗っていた自分の頭に手を当てながら、分かって言ったのかなんなのか、彼のその言葉を頭の中で反芻してしまった。

「ときめきの一歩かな?」
「えっ!?」

 ボーっとしていた私を覗き込みながら、花蛍がからかってきた。
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