合法ドラッグ

□drug4
2ページ/4ページ

「ち、違うわよっ!!」

 本当にそういうわけではないのに、何故だか焦って答えてしまった。

 花蛍はいつものように読めない笑顔を称えたまま自分を見ている。

(……馬鹿らしい…)

 私は、その笑顔を見ていると、間抜けのように感じてしまったので、気持ちを落ち着けることにした。

「それより、どうだった?あの二人は?」
「!?」

 私が落ち着いたのを見てか見ずかよくは分からないが、花蛍が私の能力を知った二人について尋ねてきたのだった。

「うん。あの二人、優しいんだ。だから、びっくりしちゃった」

 私は花蛍に苦笑を見せた。

 そして、そのまま今回の仕事をどこまで一緒にすればいいのかを訊いてみた。

「さすが!気づいてたんだね」

 分かりきっているはずなのに、悪戯っぽく花蛍は私に言ってきた。

 私は少し呆れた表情を見せて、花蛍から顔を逸らすと続けて話した。

「あの“猫”は子どもたちが『まだ遊びたい。まだここにいたい』という純粋な思いから生まれた“精霊”みたいな存在よね?」
「そう」
「お礼…、をしてくれるんでしょう?一番会いたい人の姿を見せてくれる……」

 風疾と陸王はきっとあのヒトたち。

 じゃぁ、私は誰なのだろう。

 私が今一番会いたいヒトとは。

 また、心が暗くなっていく。


『周りの人と違うなんて気持ち悪いっ!!』



 あの言葉が耳に木霊していく。

「行っておいで」
「っ!!?」

 過去に追い立てられる私に、花蛍がはっきりとそう言った。

「彼らは、君に幻滅なんかしない。彼らは君を受け入れてくれるよ」
「・・・・・」
「それに、君はもうシッテしまっている。そのことは伝えてしまわないとね。僕がフォローはするよ」
「・・・うん」

 私には<超能力>がある。

 それは、自分でコントロールできるモノとできないモノがある。

 コントロールできないその力が勝手に視せるコトや知らせるコトがある。

 それを知ったら二人はきっと傷ついてしまう。

 そして、私に対して嫌な気持ちを向けるだろう。

 せっかく気持ちが開いてきたというのに、また閉じてしまうかもしれない。

(怖い……)

 だが、花蛍は私に行けと言う。


『あぁーーー!ちょっと待ってーーー!って、ここ3階だぞおいっ!!』


 突然に風疾の大声が聞こえて来た。

 こうなることもワカッテいた。

「・・・・・」
「行っておいで。君の会いたい人も見ておいで」

 黙って動こうとしない私に花蛍が更に背中を押そうとする。

「・・・うん」

 乗り気ではない。

 だが、花蛍には私の未来が視えているのかもしれない。

 それは私にとっていい先見なのか、それとも少しは苦労する先見なのか。

 彼の笑顔からはその裏さえも探り出せないので、私は意を決して行くことにした。



***




 風疾の大声を聞きつけて、私と陸王は飛び出して風疾の元へと落ち合った。

 捕まえた“猫”が突然に3階から飛び出て行ったということだった。

 そこから三人で追いかけて行く。

 風疾が動物並みの動きで“猫”と一緒の道筋で先頭を行き、私と陸王はあとから追いかけていた。

 そうして、ある公園に辿り着いた。

 “猫”を追いかけて、先を行っている風疾にはまだ追いついていない。

 息を少し整えながら公園の中に入って行こうとした時、陸王が探り出すように私を見下ろし、そして確信を持って訊いてきた。

「飛鳥、お前、あの“猫”がここに来るってこと知ってただろ?」
「・・・えぇ」

 ここまで一緒に来て、勘の鋭い陸王を誤魔化しても仕方がない。

 私は包み隠さずに素直に答えた。

 陸王はそんな私に怪訝そうな視線を見せ始める。

 私は内心で不安に押しつぶされそうになっていたのだが、それを押し止めながら、風疾の姿を見つけ出した。

 この公園で立ち止まった“猫”を見たまま風疾が私たちに遅いぞと声を掛ける。

 私は肩を竦めて無言で返事をする。

 陸王はいつものように風疾をからかった返答をした。

「猫のあとを追いかけるのは猫の方が得意だろうよ」
「なんだと―――!!」

 陸王の言葉にいつものように苛立つ風疾は大声を上げてしまう。

 そんな風疾の口を陸王が塞いだ。

 近距離で顔を突き合わせる二人は本当に絵になる光景だと、私はしみじみ思ったのだが、相性というのはどうにもならないものなのだなと感じさせる。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ