舞華
□第四抄
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口元に手を当てながら悲痛な表情を浮かべたいりすは視線を前に移した。
「っ!!蛮っ!!」
そこには、戦う気力を失くした蛮骨が、自慢の大鉾を手離して立ち竦んでいた。
蛮骨の周りには長槍や刀を構えた兵たちが囲んでいる。
「蛮っ!!」
いりすは思いっきり叫んだ。
そして、蛮骨を囲む兵の間をすり抜けて、彼の元まで駆け寄って行った。
蛮骨は、先ほどまでいりすがしていたような虚ろな目をしていたが、彼女の姿を視認すると光を戻して驚いていた。
「いりすっ!?なんで?」
目を見開いてこれは現実かと疑いながら蛮骨はいりすに聞いた。
「花珠が教えてくれたの!」
そう言って、蛮骨に抱き着いた。
「どんなことがあっても決して離れないっ!!私はあなたとともに在りたいのっ!!」
蛮骨は自分の胸の中に飛びついてきた愛しい少女を見つめる。
もう戦う気力のない蛮骨はその少女を護れる自信がない。
「逃げろ…、いりす。逃げるんだっ!!」
「いやっ!!!」
蛮骨が言うのも否定して、いりすは彼に抱き着く腕を強めた。
だが、いりすの悲痛な想いも空しく、複数の兵に取り押さえられると蛮骨から引き離された。
それでも蛮骨から離れたくなくて、一緒に殺して欲しくて、兵たちに抗い、彼の方に手を伸ばすいりすの眼前で、蛮骨の首は容赦なく討ち跳ねられたのだった。
「い、いやああああああああああ!!!!!」
いりすは花珠が死んだ時以上の悲痛な叫び声を上げると、現実を受け入れたくないばかりに、眼前が真っ暗になり闇に包まれてしまった。