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□喧嘩の仕方
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喧嘩の仕方はひとそれぞれ

仲直りの仕方も、ひとそれぞれ


『喧嘩の仕方』


なるべくならスムーズに人生を送りたい。
それは人間ならば誰でもそう思う事だろう。
面倒な事は嫌いだ。
なるべくならそんな物は避けて通りたい。
だが、現実はどうだろう。
虎徹は自分の部屋を見回しながら考える。
他人からは異常にお節介なおじさんというレッテルを貼られている。
あまり自分から望んでいる訳ではないのだが、どういう訳だか、面倒事に首どころか全身を突っ込んで身動きが取れなくなるのが常だ。
「………」
面倒な事は嫌いだが。
どうやらそれは自分がそう思っているだけのようだ、と最近虎徹は気付いた。
バーナビーに関する面倒事は、虎徹にとっては苦にもならない。
幾つになっても自分に関する発見は新鮮だ。
うんうん、と独りで納得して頷きながら、虎徹はソファの上でふてくされて座っているバーナビーの後ろ姿を見た。
喧嘩の原因は、彼と言い争いをしているうちに忘れてしまった。
だから、虎徹の中では既にバーナビーとの間に起きた諍いは終了している。
しかし。
年若く、おまけに実年齢よりも精神年齢が若干低いバーナビーは違うらしい。
いつも虎徹と言い争いをすると、一言一句をしつこいくらいに根に持っているようだ。
そういえば、出会った当初はバーナビーにとっての数分を虎徹が無駄にした事を、一生忘れないと言われた事もあった。
(え〜…今日の喧嘩の原因、何だっけなあ……)
発端が分からないので、謝りようもない。
そもそも理由も分からず謝罪する事は互いに良しとしていないし、このままでは埒が明かない。
「あ〜………」
虎徹は冷蔵庫を開けて中身を確認し、また閉じる。
わざと大きい音を立ててしまうのは、バーナビーの反応を確かめるためだ。
今の所、虎徹の方を見る事もなく、バーナビーは拗ねている。
しかし、全身でこちらの気配を窺っている事が分かるので、虎徹は思わず笑ってしまうのだ。
「あの〜、バーナビーさん?俺、ちょっと買い物に出かけてくるからさ」
故意に普段の呼び方とは違う、本来の彼の名を口にする。
ぴくりとバーナビーの肩が震えた。
「帰るなら、鍵しめといてね。しめたらいつものトコに置いといてね」
きゅ、とハンチングを被り、虎徹はバーナビーを見る。
「じゃ、いってきます」
ひらりと手をふり、虎徹は玄関へと向かった。
その途端。
背後の気配が動く。
足音を立ててバーナビーが走ってきた。
そして虎徹に後ろから抱き着いてくる。
「あの〜……買い物にいけないんですけど?」
返事の代わりに、バーナビーの両腕に力がこもる。
行かせてなるものか、とでも言うように。
虎徹は、ふう、と溜息を吐いて両肩を落とした。
「行くなって事ね?」
問いかけながらバーナビーの腕をぽんぽんと叩くと、彼はこくりと頷いた。
「んじゃ、仲直りしてから一緒に買い物な」
もう一度、バーナビーは頷く。
「…俺とお前、喧嘩の仕方も違うよな。俺は、がーっと言ってばーっと暴れたらスカッと忘れるんだけど。お前、何かイヤラシくしつこいよな」
バーナビーの腕に少しだけ体重を預け、虎徹は笑う。
「……虎徹さん!!!それってどういう意味ですかっ!!!」
「どうもこうも無いだろ、そのまんまだよ……って、ちょっと待てお前!!ここで能力発動させんなよ癇癪持ちっ!!」
バーナビーが俯いてわなわなと震える姿を見て、虎徹が慌てる。
「癇癪持ちじゃありませんっ!!それに僕はイヤラシくなんてありませんっ!!!」
「いや、そこじゃなくて!!気にするとこそこじゃなくて!!」
仲直りにはまだ時間がかかりそうだ。
今度からもう少し言葉を選ぼう、と虎徹はバーナビーに床に押し倒されながらそう思った。

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