とある魔術の禁書目録

□とある血に塗れた世界で
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「ほら、早く逃げねェと死ンじまうぜェ?」


充満する血の匂い。派手な血飛沫。響き渡る絶叫。狂気の満ち溢れたこの場に居るのは一人の少年と、一人の少女。繰り返される殺戮の中で彼女の意識はゆっくりとしかし確かに落ちていく。


「はぁ…っ、げほっこほっ、」


咳き込む声の後に聞こえたごぽっという水気を含んだ音とびしゃびしゃっと何かが飛び散る音が少年の心をじわりじわりと侵食していく。彼を麻痺させていく。


「つーかよォ、人間の血ってェ思ったより多いンだなァ。その華奢な器にどれだけ入ってンだろォなァ?」


試させてくれよ、ぐちゃりと歪んだ笑みで悪魔がそう告げる。少女は逃げる事しか出来ない。否、それすらもままならない。



残ったのはただの肉塊と、真っ赤な絵の具のような血溜まり。




突然降りだした豪雨が少年の白い髪を染めていた赤を洗い流していく。彼の罪は洗い流されないというのに血だけはあまりに簡単になかったことのように消えていく。


今宵も空を見上げ一人思う。


ああ、また殺してしまった―。


全てが終わると言い様のない不快感に襲われた。そしてそれも今日でちょうど1万回目。少し前の"実験"から場所が研究所内部から外部に移行し、よりリアルで内容の濃い実験をするようになっていた。


後片付けに現れるのは勿論先程も始末した"妹達"。


「被験体一方通行は第10001次実験に備え、所定の位置へ移動してください、とミサカは次回の実験へと貴方を誘導します」


一体一体が何かを話したり受け答えたり、そう言ったことは一切見られないのに、淡々と淡々と、後片付けを進めていく。血を固めて剥がす。彼女等にとっては慣れたものなのだろう。血を剥がし、壊れたものを修理し、元通りにしていく。

その一連の動作を少し見て、舌打ちをひとつ。彼女等を殺しているのは自分で、死んでいくのは彼女等自身。それなのに彼女達は顔色一つ変えやしない。その事が自分を腹立たせる。


次の実験場へと移動する事にした。ここに居ても、仕方がない。じゃり、と地面を蹴るとその反動で浮いたとは思えないほど高く飛び上がる。ビルの谷間を縫い、空を駆ける



指定の場所に着いて、地に降りる。ふわりと降り立ったその場所には妹達の1人が立っていた。雨は上がりぬかるむ地面がまた少年を汚す。もう後戻りは出来ないと言わんばかりに足にまとわりつく。

自分も彼女達も助かることがないと分かっていた。自分が殺し、彼女達は殺される。そんなあまりにありふれた関係。変わることのないこの関係。



「さァ、始めよォか」



今宵もまた惨劇の火蓋が切って落とされた。



(この惨劇が終演するのは)

(少し後のお話。)

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