夢見処


□好きになるとどうして【前編】
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そんなある日、ドナテロの闇が零れ落ちる。
それはほんの些細な出来事だった。

名無しのごんたがドナテロの横をすり抜け
レオナルドへと駆け寄ったのだ。

久々にここに訪れた名無しのごんたの姿に
兄弟皆が笑顔で彼女を
出迎えた。
無論、ドナテロもだ・・・。
いち早く彼女の名を呼び、手を振ったのに
名無しのごんたはにこにこと微笑みながら
ドナテロの後に立っていたレオナルドへと
駆け寄る。

体感温度が一気に下がる。

ドナテロは、ゆっくりと振り返った。
そして、目の前の光景に唇を結ぶ。

「レオナルド!!この間はありがとう・・・これ、ほんの気持ち!あ、えっと、趣味じゃないかもしれないけど、受け取って欲しいな。」


名無しのごんたはレオナルドだけに眩い笑みを向ける。
レオナルドも、満更じゃない様子で彼女の手から綺麗にラッピングされた包みを受け取った。

「なんだろう・・・。お礼なんかいらないのに・・・。」

「へへっ・・・。でも、レオナルドのお陰でね、私・・・。」

名無しのごんたの言葉は続く、部屋中に響くのに
何一つ、音にならなくて、ドナテロの心に響かなかった。
何を話しているのか、何を喜んでいるのか
どして、その瞳はレオナルドだけど映しているのか、それされも理解できなかった。
そんなドナテロをよそに、レオナルドの穏やかな声が耳に届く。

「そうか、良かったよ・・・名無しのごんたの力になれて。」

レオナルドの手が名無しのごんたの頬に触れ
流れるような動作で彼女の髪を優しく撫でた。
ドナテロの心から零れ落ちる黒い雫。
ドナテロは手にしていたマグカップを床に落とした。

がちゃんと鋭利で鈍い音がして、マグカップが砕ける。

皆の視線が一気に割れたマグカップとドナテロに注がれ、一瞬ふっとドナテロの口元に笑みが浮かぶが、誰もその笑みに気付けなかった。

いち早く名無しのごんたがドナテロに近付き、心配そうにドナテロの身体に触れる。

「大丈夫?どっか怪我してない?」

「・・・うん。大丈夫・・・ごめん、ね?持ち替えようとしたら、手がすべちゃって・・・。」

名無しのごんたはドナテロの様子に安堵したように息を吐き出し、柔らかく微笑む。

「良かった・・・。とりあえず、ドナテロは何もしないで!今、箒持ってくるから!」


名無しのごんたが掃除用具がある場所まで駆けていくのをじっと見つめながら、彼女が見えなくなるとその場にしゃがみ込み、砕けた破片を拾い始めた。

「おい!!ドナ!!##NAME1#が今箒を持ってくるといってただろう?」

レオナルドが、ドナテロを制するようにその腕を掴む。

「・・・そうだね、うん。でも・・・。」

手にしていた破片を強く指先でつまむ。
びりっとした痛みと共に、ドナテロの指先から鮮血が零れた。

「あ・・・。」

自分で指先を傷つけておきながら、ドナテロは小さな声を漏らして、レオナルドの身体を突き放す。

「・・・い、たい。」

少し強めに放った、痛みを訴える声に
名無しのごんたが箒を手にして駆け戻ってくる。

「ど、どど、ドナテロ!!」

箒をその場に放り投げて、ドナテロに近付くと
名無しのごんたはドナテロの指先から零れる血をハンカチで素早く押える。

「もう!何で破片触ったの?ダメっていったよね?」

涙目で怒る名無しのごんたの表情を見て
ドナテロは心のそこから安堵した。

彼女はやっぱり僕が一番だ。

じんじん痛む指先よりも
自分の事で真剣に怒り涙する彼女が愛しくてしかたなかった。

「ごめん。その、名無しのごんたに手間をかけさせたくなくて・・・。」

汐らしく良いながらも、心の中は真っ黒で
それに気付かない名無しのごんただけが
今にも泣きそうな顔をする。

「片付けるから、ドナテロはあっちにいってて!次触ったら、もう知らないから!!」

「うん・・・。あっちでおとなしくしてるよ。」

ごめんねと、反省した顔でいいながら
いつもの定位置戻り、パソコンを起動させる。
その顔は誰にも覗けないが
誰も見たことが無いような、恍惚した笑みだった。
彼女の気を他から自分に向けられるなら何も怖くない。

名無しのごんたの心が自分で満たされている。

それだけが、ドナテロの支えだった。

翌日、名無しのごんたは再びここに訪れた。
綺麗にラッピングされたマグカップと共に・・・。

「ドナテロ!新しいマグカップ買って来たよ?」


名無しのごんたの存在がいけないんだ。
こうやってまた、僕の心乱す。
誰かを自分以上に好きになることって
こんなに・・・辛いんだね・・・。

「・・・一生大事にするよ。」

ドナテロの心がまた少しずつ侵食されていく。
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