はみだしっこ
□はみだしっこ
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「そおか、まとまったか」
「……」
渋面で無言を貫いた朝倉に、義父は喉で笑う。いつぞや置いていった酒の代わりを寄越せと強請られて、渋々開いた口だったが既に絶賛後悔中だ。片手で顔を覆いつつ、その口では柑橘の飴が遊んでいる。
「めでてェじゃぁねェか」
「おやっさんはそれでいいのか」
「いいも悪いも、おめェの人生だろぉが」
茶目っ気たっぷりに細められた目尻は、長年一緒にいる朝倉にも本心を窺わせない。
「おめェがしあわせならいいに決まってる」
義父の上げる紫煙が風に乗る。視線が一瞬、左手に来た気もするが気取られるような人ではないだろう。
「そろそろタバ休も終いじゃねェか? タヌキ課長にどやされるぞ」
言われつつも、朝倉の手の内には缶コーヒーがあるのみ。
「おやっさんも総監に大目玉だぞ」
それでなくとも、警視総監の懐刀は多忙なはずだ。
「おりゃあいいの。古タヌキの鼻毛の数まで知る仲だからなぁ」
目尻の皺を深くした義父と共に、溜め息ながら見上げた先の旭日章(きょくじつしょう)。
「──やぁっと、あいつの怨念から放たれるかねェ」
いくつか事務的な会話を交わして背を向けた朝倉には、義父のつぶやきは届かなかった。
END