GS:氷室/マスター
□コイビトの境界線
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逸らさない代わりに、頭を引き寄せ、額にキスするようになった。
なんだかくすぐったくて、いつも私は笑ってしまう。
零一さんの優しさはわたあめみたいにふわふわと私を包み込む。
それは、コイビトというよりもお兄ちゃんみたいだと、以前いったら変な顔してたっけ。
「零一さんはどうして私がここに来たと思ってます?」
クスクスと笑いながら聞くと、「君の行動は、予測不可能だ」とそっけなく返ってきた。
「あーっ、ちょっとぐらい考えてくれてもいいじゃないですか!」
「コドモの行動は突拍子もないことばかりだからな」
しれっとして返ってくる言葉は、やっぱりいじわるなお兄ちゃんで。
照れた時の零一さんを知っている身としては、どっちがと言いたくなる。
「それって、私がコドモって事ですか?」
「そうともとれるな」
「ひっどーい!」
笑いながら、その眼鏡に手をかける。
外したときの零一さんの瞳はいつも以上に鋭くなって、瞬間どきりとする。
でも、いつも眼差しの温かさに私は安堵する。
「こら、返しなさい」
「やですーっ」
取られないように首に抱きつくと、さっぱりとしたミント系の香りがした。
シャツ越しに伝わってくる温かい気配はどんな場所よりも安心できて、私はそのまま目を閉じて、温かさを黙って感じる。
「東雲?」
珍しく、黙っている私を不思議に思ったのか、背中に手を回し、もう片方の手でそっと髪を梳く指を感じる。
ふと不思議な気がした。
だって、ここにいるのは元とはいえ、3年間も受け持ってもらった担任教師で。
最初に見た時はとても怖くて、怖くて、怖いけど時々優しくて。
生徒のことをとても大事に思ってくれているのだと、最初の補習の時に感じた。
零一さんはレポートを出したりするのが趣味なのかと思ったけど、(半分は趣味だろうけど、)とても生徒のことを考えてくれる素敵な先生だと思う。
敬愛が恋愛に変わるのはそれほど遅くはなかった。
たぶん、きっとそれは奇跡みたいなことだという人もいる。
奇跡でも運命でも零一さんを愛せるなら、私はなんでもいい。
今こうして一緒にいられる時間を大切にしたい。
感謝したい。
だから、私はここにいる。
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「Happy Birthday 零一さん」
――零一さんと出会えた奇跡に、お礼を言いたいから。
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