GS:葉月/姫条/他
□飛べない鳥
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私は晴れて一流大学に進学し、四月から女子大生になった。
高校3年間もの間、同じ教師に担任されたために一部の違和感は拭えなかったが、同大学に友人たちも進学しているので少し安堵していた。
「あ〜葉月珪の新しいポスタ〜♪」
掲示板に貼られたポスターに女性が黄色い声をあげるのも日常茶飯事。
私もあの掲示板を通るたびに幸福なため息をついてしまう。
貼ってある理由も知っているし、撮影現場も見ていたから余計に。
もちろん、私の部屋にもある。
「や〜かっこい〜っ」
「うちの大学に入ったんだって〜聞いた?」
そして、彼もこの大学に進学している。
理由は家から近いというだけだったが、おかげで私も苦労した。
「聞いたけどぉ最近忙しいらし〜じゃない?
学内で会えるかどうかも万分の一だよ……」
私もデート以外じゃ会わなくなった。
うん。
彼女らの話に一人肯いていると、冷めて呆れきったあの声が聞こえてきた。
「何してるのよ、ハルカ」
振り返ると、有沢と守村が並んでいた。
二人は学内で再会してからなんとなく付き合っている風だ。
有沢は一応、否定するだろうが。
「おはよ、二人とも今来たの?」
「ええ。
……正門で偶然会ったのよ」
視線をさまよわせながら、二人とも顔を赤らめている。
いいな、こうゆうの。
「で、貴方の方は今日も例の彼とは一緒じゃないの?」
有沢の言葉は厭味な感はしないが、鋭いところをついてくる。
「うん、本当に今忙しいんだよね。
メンズ雑誌の専属とったし」
もちろん、それは当然だと思うし、私も欠かさず買っている。
でも、そのせいで喫茶店アルカードに隣接するスタジオでの撮影ということが減ってきたのは、淋しい。
せっかく高校から続けてやっているのに。
昔は何度も足を運んでくれた葉月も、ごく稀にしかこない。
「でも、電話はしてるんでしょう?」
不安そうな守村の問いにも、私には笑って返すことしかできなかった。
「ん〜こっちからかけるとマネージャーさんに切られちゃうし、彼もまめにかけるほうじゃないから」
ここ1週間ぐらい声も聞いていない。
二人が驚いているので慌ててフォローをいれた。
「でも、メールはしてるよ。
毎日」
そのフォローには、有沢の深〜いため息が返ってきた。
「大変ね、貴方も」
でも、わかってて付き合っているのだ。
彼がモデルをしているのはもうずっと前からだし、続けているのは彼の意思。
私が止める権利はない。
「珪クン」は私の彼氏だけど、「葉月珪」は私一人の彼でないのだから。
* * *