GS:葉月/姫条/他

□キスの報復
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 ケンカの原因なんていつも些細なことで、私がいつも先に謝って、葉月があやまって、仲直りのキス。
 そんなお決まりのパターンで終わるはずだった。

 卒業してから、私はよく撮影を見に行った。
 誰と共演しても葉月はいつも通りで、ときおり私をみて微笑む瞬間がベストショットだって、マネージャーもカメラさんもスタッフもぼやいてた。

 あの日もそんな日常が繰り返されるはずだった。

「春霞ちゃん、よくきたねぇ〜」
「ここに座ってくれる?」

 用意された椅子はいつもの暗がりではなく、撮影のよく見える位置で。

「葉月ちゃんはこっちね〜」

 そこからは葉月がとってもよく見えた。

「……すぐ、終わるから」

 ココロなしか、葉月の顔が厳しいものに変わっている。
 そんな顔をさせる相手モデルは誰だろうと、興味をもった。

「葉月ちゃん〜そんな顔してると〜カノジョが心配するでしょ〜?」

 それはカメラマンにも伝わったようで、葉月は取り繕った笑顔を私にむける。
 でも、かなり無理してるのがよくわかる。
 全部を抜きにしても、スタッフ全体の様子がおかしいことに、私も気がついてはいた。

「今日、何かあるんですか?」
「え?
 別になにもないわよ?」

 マネージャーに聞いても、この人から何かを聞き出すのは難しい。

 いつもの葉月はこんな顔しない。
 もっと柔らかく微笑むヒトが今日はどうして――。

「すいませ〜んっ」

 スタジオの扉が開いて、悠然とその女性は入ってきた。
 私から見てもすごく魅力的で、自信に満ちていて、悔しいくらいに悠然とした挑戦的な悠然とした笑みを向けてきた。
 私がよく読む流行誌の表紙を飾っているモデルだ。

「やっときたわね」

 マネージャーの呟きとため息よりも、さっきの微笑が気になる。
 この時、本能的にいやな予感はしていた。
 葉月はいつもよりもさらに憮然としているのに、彼女はそれに気がつかないみたいだ。

「まさか、また、お仕事できるなんて思わなかったわよ〜っ、そんなに私に会いたかった?」

 なに、このヒト。
 あなたより、葉月のがずっとずっと美人なんだから!

 撮影が始まってからは、二人はプロのモデルなんだと実感した。
 二人がどんなことをしても絵になっていて、普段の葉月とは全く違っていて。
 でも、普段一緒にいるのは私で。

 そりゃ〜私は……そんなに美人でもないし……頭も良くないけど……。

「……春霞」

 努力して……、努力しないと葉月に釣り合わないけどさ。

「おい、春霞」
「うぁっ!?
 珪クン?」

 なんで、さっきまでカメラの前にいたんじゃないの?

 肩越しに相手モデルが怒っていて、それをスタッフが慰めているのが見える。

「撮影中によそ見するな」
「え?
 ずっと珪クン見て……」
「余計なことも考えるな」

 う……っバレてる。

「葉月ちゃ〜ん」

 カメラさんが呼んでるのに、葉月は私の手を引いた。

「葉月」

 マネージャーの冷たい声に、何故か葉月は動きを止める。
 いつもは気にしないのに。

「今日は、コレ終わってからね」
「………」
「気持ちはわかるけど、堪えて」

 なんだろう、この会話。
 葉月、嫌なのかな。

「……待ってろ」

 額に軽くキスを残して、葉月は撮影に戻った。
 私には何がおこってるのかさっぱりわからない。

「東雲さん、何がおこってもここを動いちゃダメよ」

 マネージャーを見上げると、言い表せないくらい厳しい表情で撮影も見守っている。
 スタッフからも緊張した空気がさらに張り詰めて、息が苦しくなりそうだ。

「春霞ちゃん、もうちょっと笑っててくれるかな〜?」

 何故かカメラさんから私に指示が飛んだ。
 条件反射で笑う私に、彼は黙って葉月たちを指した。

 なにが、おこるのよ。

「じゃあ、いくよー」

 また、何事もなかったかのように撮影は始まったけれども、さっきの不可解な指示はなに?

「……東雲さん、この撮影はあなたにかかってるの」

 唐突にマネージャーが話し出した。

「あなたはどうして葉月を好きなの?」

 内容も唐突だ。

「葉月はこのとおりの人気モデルよ。
 付き合っても辛いことばかりじゃない?」
「そんなことありません!!
 珪クンは……珪……は……」
「でも、とても大切にされてるわね。
 羨ましいくらい」
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