GS:葉月/姫条/他

□神サマが見てる
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 おまえは手を繋いでいるだけなのに、たったそれだけでオレを優しくさせる。

「何年ぶりかな、ここに来るの」

 教会を仰いで春霞は眩しそうに目を細めた。
 そんな彼女が愛しくてオレも目を細めた。

「全然変わってないんだ――」

 嬉しそうに、少しだけ寂しそうにいう春霞の手を、強く握り返す。

 卒業して何年か経ったある日曜日。
 オレたちは学園の小さな教会を再び訪れた。
 オレは――白いロングコートを羽織って。
 春霞は花をあしらった白のワンピースを着て。

「私たちの全部は、ここから始まってきたね」

 うっとりとささやく肩を抱き寄せると、春霞は軽く頭を預けてきた。

「……そうだな」

 言葉がもどかしくて、気の利いたセリフも出てこない。

「ねぇ、私のこと……」
「愛してる、ずっと」

 言葉と共に被せようとしたキスを、あっさりと拒絶される。

「聞きたいわ、『お話』して?」

 どうしていつも、残酷なくらい可愛い魅力的な笑顔で、おまえはそれを言うんだ。

 二人で教会に入ったけれど、おまえは先に真ん中まで駆けて行ってしまって。

「おい、走ると……」
「ここがいいわ」

 そのまんま、その場に座り込んでしまった。
 長く伸びた髪が絵本の姫と同じくらいまで伸びていた。
 近づいて、取ろうとした手まで弾かれてしまって、オレは途方にくれる。

「ここで」

 瞳は全然潤んでいなくて、聖女みたいに微笑んでいるおまえがどうしようもなく愛しい。

「ここなら――聞こえるから」

 その微笑みからは、もう何も読み取れない。
 壊れてしまったおまえに、オレは何も出来ないのかと思うと悔しかった。



 そして、オレはまたおまえに話をする。

 王子と姫の物語を。



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