GS:葉月/姫条/他

□biginning
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 夢の中でいつも約束をする。
 相手はいつも同じで、柔らかな金髪で碧の瞳の可愛い男の子。

―――――約束。

 いつも起きると頬が濡れていて、いつも起きるととてつもない喪失感が襲ってきて。
 覚えていないのに、心が痛くなる。

 いつもだったら。
 何も覚えていないのだけど。

「約束、したろ?」

 そこにいたのは珪くんで。

「憶えてるか?
 初めて会った時のこと」

 そう言いながら、整った顔が近づいて来て、蕩けてしまいそうな瞳の中に私がやっぱり溶けていく。

 リップラインも色も敵わない。
 完成された美しさに気後れし、あとずさる私は顎を捕らえられて、動けないままで。

「――!!」

 触れたと思った瞬間に、視界は暗転した。
 身体に響く鈍い痛み。

「な、なにしてんだ、ねえちゃん?」

 ドアを開けた弟に、ものすっごく呆れた声で言われた。
 ええ、私もそう思うわよ。

 そんないつもの朝の出来事だった。

「珍しく早起きだと思ったら、ベッドから寝ぼけて落ちるなんてな。
 まぬけ〜」
「うるさいわよ、尽!」

 珍しく姉弟そろって、登校しながらからかわれる。
 なんで、こいつは私をからかうの好きかな。
 普通、年上は敬うもんでしょ。

 アッシュグレイのアスファルトをならんで歩きながら、車道に出そうな弟の手を引く。

「危ないよ」
「危なくないよ、車来てないし」
「来るかもしれないじゃない」
「来たら、避ければ良いんだよ」

 事も無げに言われて、朝から腹の立つことだ。
 それでも、少しは可愛いところもあるし、頼れるところもある。

「で、結局なんの夢見て落ちたの?」
「聞きたいの?」

 満面の笑顔で頷かれる。
 それは姉の欲目を引いてもやっぱり、可愛い。
 なんで、女の私よりも可愛いかな。
 こいつは。

「それとも当てて見せようか?」
「へ?」

 間抜けな返事だと思う。
 我ながら。

 一瞬遅れてスカイラインが私達を追い抜いて行って、風が髪を靡かせる。

 尽は後ろ向きに歩きながら、私の前を歩く。

「それってさ、男の夢だろ?」
「え!?」
「夢に見るほど好きなヤツって、誰?」

 協力するぜ?などといわれて、とっさに顔に手をやる。
 思い出してしまうじゃないか。
 今朝の夢を。
 珍しく覚えているあの夢を。

「なななんでよ!?」
「ねえちゃん、わかりやす過ぎ」

 笑いながら言われて、怒って取ろうとした手をかわされて、慌てて追いかける。
 こうなるとどこまでばれているのか確かめなければ。
 そう思ったのに。

「ちょっと、尽!」
「お、あそこ歩いてんのは葉月じゃん。
 はっづき〜!!」

 尽の声に降りかえる姿に、私は立ち止まる。
 夢が、重なる。

 約束と。

 近づいて来る立ち姿と。

 告白と。

 挨拶と。

「朝から何暗い顔して歩いてんだよ!
 そんなんじゃ、猫も寄ってこないぜ?」

 尽を通りすぎて、真っ直ぐ向かってくる姿から目が離せず、目の前で立ち止まられて、心臓が高鳴る。

 距離が、顔が、夢のままで、幻聴が、聞こえる。

「約束、したろ?」

 思い出せない約束だけど、きっと私、知ってる。

 初めてあった時のこと。

 はばたき学園の中のあの教会で、会った時。

 本当は二つのヴィジョンが重なっていた。

 見たことのある教会。
 見覚えのある景色。

 そこで、きっと誰かに会った。
 この街に来る前に。
 きっと、もっと小さい時に。

「……おはよう。
 東雲」

 低い囁く声に、はっと我に返る。

 尽は友達を見つけたのか、もっと先へと急いで走っていた。
 友達の肩に手を掛けて、笑いあってる姿を視界の端に収めながら、その中心はしっかりと珪くんに注いだままの私。

「まだ、寝ぼけてるか?」

 クスリと笑われたのに嫌な感じはしなくて、どうしてかホッとする。

「起きてるよ」
「そうか?」
「ちょっと、夢を思い出しただけ」

 笑顔を向けて、ブレザーの袖を引いて並んで歩き出す。

「夢?」
「そう、夢」
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