GS:氷室/マスター

□誰彼のまどろみ
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 今年から、私はまた新たな1年生の担任となった。

「静かに!私は本年度の君たちの担任となった氷室零一だ」

 こうしてまたいつもの1年間が始まる。
 もう幾月もの歳月を過ごした教室が、新鮮な息吹を吹き込まれて息づく。
 教室に一歩踏み入れた瞬間に広がる静寂は、交響曲を演奏する前の静けさに似ている。
 完成された演奏を私は指揮棒ではなく、教師として演奏し始める。
 この私の完璧な演奏の前に、完成されないものなどないと彼らはすぐに思い知るはずだ。

 例年どおりに始めたHRなのに、気がつくと眼鏡の奥で何かを探している自分がいた。
 ――足りない。
 決定的に何かが欠けている。

「先生!恋人はいますか?」

 毎年のようにこういう質問をする輩はいる。
 いつもは顔を険しくしているところだが、それで気がついた。
 そうだ、いるわけがない。
 彼女はここにいるはずもない。

「たった今、そういうふざけた質問をしないようにといったはずだ」

 口元が自然にほころんでくる。

 東雲 春霞は、もう卒業したのだからいるわけがない。



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