GS:氷室/マスター

□赤いGLASS
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 氷室が開けてくれたドアを通ると、一斉にクラッカーの音が炸裂した。
 クラクラする私を、後から力強い腕が支える。

「大丈夫か?」
「……なんとか」

 私を後ろに庇うようにして、氷室が前に立った。

「あぶないだろう」

 ここに来ると、氷室の声は格段に柔らかくなる。
 それは幼なじみがいるという安心からかもしれない。

「一緒に来たってことは、そーゆーことだろ?
 いーじゃねーか、めでたいんだから!」

 その幼なじみのマスターが進み出て、私たちをピアノの前のテーブルに案内した。

「一人だったらどーする気だったんだ?」
「ありえないね」

 キッパリと言い切るマスターに氷室が不思議そうに返す。

「理由は、まぁ、ともかく」
「待て。
 なにがともかく、だ」
「そんときゃ、残念パーティーでもやるさ。
 なぁ?」

 マスターの意見に常連が皆、頷いた。
 要は、騒げれば何でも良いと。

「……貴様……」

 ため息をつきながらも、氷室の口角が上がっている。
 ひょっとしたら、この冷かしが嬉しいのかもしれない。

「ほらよ。
 今日はオレの奢りだ」

 二人の前に出されたのは、いつものレモネードではなかった。

 透き通る赤色のグラスを持ち上げると、マスターを睨みつける氷室が赤く染まっている。

「おい。
 東雲はまだ未成年だぞっ?」
「まぁまぁめでたいんだから……」
「そういう問題ではない!」

 赤い赤い液体はすごく魅力的で、私を飲んで、と誘っている。

「東雲」
「ぅはいぃぃぃっ!!」

 声に驚いてグラスが手から滑り落ちた。

「あっ!!」

 制服が……。

 場が一気に静まり返った。

「すまない。
 驚かせてしまったか?」
「……グラスは無事です、けど」

 グラスはスカートの上で抑えているが、中身はすべて制服のスカートの内に吸い込まれてしまっている。

「グラスなんぞはどうでもよろしい。
 割れたところで困るのはこいつだけだ。
 それより問題なのは……制服、か」
「春霞ちゃん、タオルどうぞ」

 マスターがカウンターから真っ白なタオルを差し出してくれた。

「マスターさん……」
「ごめんねぇ、奥の部屋で着替えるかい?」

 着替えるといっても替えはなし。

「そうさせてもらう」

 私が断る前に、氷室が腕を取って立ち上がらせた。

「せんせぇ、私、着替えが無いんですよ?」
「問題ない」
「ありまくりですっ」

 抗議の意見もお構いなしに、勝手知ったるカウンターの奥へと私を引きずって行く。

「襲うなよ〜零一♪」
「………」

 無言で外野を睨みつけて、私を奥の扉に押し込んだ。

「……覗かないってば」
「ホットレモネード」
「はいはい」

 せんせぇ?
 それはもしや……私が飲むのですか?



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