GS:氷室/マスター

□あけるまえ
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 最後の客を送り出して、戸締りをしてから俺は店の外に出た。
 夜空の暗い闇のカーテンが揺れながらゆったりと上がってゆく。
 散りばめられたコンペイトウの欠片が光に弱い輝きを散らし、消えてゆく。

 今年もまた、新しい年が始まる。

 朝日が告げる新年の幕開けに、奇妙な感を覚えながら、俺は自宅とは反対の方向に歩き出した。
 凍るような空気に身を竦ませる。
 静かだが、清廉で清々しい朝の空気はいつもと違って、新たな命の息衝きを感じる。
 何時もなら完全に眠りについているハズの街はかすかにざわめきと興奮をはらむ。
 祭りとは違う、なんとも言えないものがここにある。

 一軒の家の前で、俺は足を止めた。
 表札には東雲、と書かれてある。

(零一の彼女もたしか、そんな感じの名前だっけか)

 ぼんやりとそう思っただけだ。
 本人はいつも否定するけれど、零一が大切にしている少女。

『マスターさん』

 耳に残っているその声を思い出して、苦笑する。
 あどけない笑顔や、俺がなくしてしまったものを手にしている少女。
 甘い痛みを気がつかないように俺は息を吸いこんだ。
 冷たい空気が目を覚まさせる。

 冷たくなってきた足を動かして、俺は先を急ぐ。
 そういえば、この朝の空気は彼女に似ている。
 清らかで明るくて清々しく、でもしっかりと芯をその身に持つ感じ。



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