GS2&4:読切
□Shooting Star
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うーん、と自室の机の前で首を捻る。
手元にはこれから使おうとしているケータイがあるわけなんだけど、いつものように瑛くんにかけようとして気が付いた。
いや、迷惑とかそういうことは別にイイ。
瑛くんにとっては最初から私が迷惑なのには違いないんだから。
思い返してみれば、初対面も、同じ学校ってわかったときも、珊瑚礁でアルバイトを始めた時も、いつだってものすっごく嫌そうな顔をしていた。
それが楽しいかと聞かれたら、私は素直に楽しいと答える。
正直、瑛くんはなんだかでっかい弟みたいで、なんだか自分を飾らないで話せて。
なんていうか、ほら、気の置けない親友って感じ。
その距離感が気に入っているわけなんだけど。
最近、様子が変だと思う。
思い違いかもしれないけど、そう感じる。
「うわっ!」
手元で急に着信を報せるケータイに慌てる。
ディスプレイに映る「瑛くん」の文字にはそろそろ見慣れてきた。
あのね、最初から別に「瑛くん」って入れてたわけじゃないのよ。
その、はるひと話してたら無理矢理変えられちゃってね。
それから、変えるのもなんだかなーってだけで、別に深い意味はないのっ。
(て、誰に言い訳してるのかな、私は)
動揺を押し隠して、通話ボタンを押す。
それは最近かかってくるようになった「お誘い」の電話。
笑って流してるけど、やっぱりちょっと変。
気になったことを溜めておくような私じゃない。
「ねえ、瑛くん」
「あ、おい外見てみろよ。
海の方、見えるだろ?」
「え?」
カーテンを開けて夜空を見上げてみる。
今夜は細い三日月が窺うばかりで、辺りは闇一色だ。
だけど、空はーー。
「ぅわぁ…っ、流星群?」
真っ暗な闇の中、キラキラと星の雨が降っている。
いくつもいくつもこぼれ落ちるそれにケータイを持っていない方の手を伸ばす。
「キレイだろ」
「うんっ、うわ、掴めそう…!」
「はははっ、危ないからあんまり乗り出すなよ」
その言葉に、慌てて伸ばした手を引っ込める。
あれ、でもなんで電話でわかるの?
「馬鹿、あかりの行動なんか見てなくたってわかるって。
いつも見てーー」
電話の向こうで大きく波の音が響く。
そうだ、瑛くんの家は珊瑚礁の二階で、あの部屋は目の前一面が海で。
目を閉じて、携帯の向こうの音に耳を澄ませる。
ザァーッザザァーッて、波の音が聞こえてきて、まるで一緒にいるみたい。
「ね、瑛くん?」
「…なんだよ」
少し照れているような拗ねてるみたいな声、ちょっと好きだなって思う。
「今、海見てるよね?」
「?
あたりまえだろ」
うん、こうして目を閉じて、電話の向こうの瑛くんの声と波の音を聞いてると、まるで。
「ふふっ」
「なんだよ?」
「目、閉じてると隣にいるみたいだなぁって」
同じ場所で、海を眺めてるみたい。
ゆらゆらと穏やかな波が私の心にも生まれてくる。
これは、ずっと瑛くんの心にある波と同じなのかな。
「おまえ…それは反則だろ」
「え?
なにが?」
「なんでもないよ。
おやすみ、あかり」
ほら、こういうときやっぱり前と違う。
声音が少しだけ優しくなってる。
嫌じゃないんだけど、何か違うなって思う。
けど。
「おやすみなさい、瑛くん」
まあいいか、嫌われたとかじゃないみたいだし。
ケータイを置いて、また窓辺に戻る。
まだ降ってる星を見上げて、音を思い出す。
波の音と、瑛くんの声。
ーー今夜は、良い夢見れそうだな。
穏やかに過ぎる時間を胸に知らず知らずに笑顔が浮かんでいたことに、私は気が付かなかった。
* * *