GS:葉月/姫条/他

□飛べない鳥
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 その日の午後は久々に3人とも午後が空いているので、母校訪問しようという話になった。
 懐かしいな、はばたき学園。

「氷室センセ、いるかな〜?」
「いるわよ。
 たぶん、試験問題作ってるんじゃない?」
「今の時期って、そろそろ課外授業なんじゃないですか?」
「良く知ってるわね、守村君」

 そんな話をしながら、正門を出てすぐだった。
 よくあるパターンで彼は現れた。

「カノジョ、俺とお茶せえへん?」

 この声と関西弁は、ひとりしかいない。

「にぃやん!?」

 赤いシャツで胡散臭いグラサンをかけた、ニィやんこと姫条である。
 彼はフリーターになって、社長になるために地道に頑張っているときいていた。
 彼と付き合っている友人の藤井から。
 でも、今はその藤井の姿がそばにない。
 彼女もフリーターで一緒に頑張っているはずだが。

「春霞ちゃん、また背ぇ縮んだ?」
「久々〜っにぃやんも胴伸びた?」
「最近、歩きにくぅなってなぁ〜……て、何言わすんじゃ!」
「あはは」

 相変わらずだけど、卒業してから、背が伸びたみたいだ。
 高校3年間は全然伸びなかったという話だけど。

 そういえば、この人と付き合う寸前までいったこともあったな。
 でも、私はやっぱり葉月を放っておけなくて、藤井に譲ってしまったけれど。

「自分、変わらんなぁ」

 そうかなぁ、そうだと困るなぁ。
 成長しない自分は、怖い。
 葉月といるには常に成長しつづけなければいけないのが、つらい。

 照れたような彼の笑いにつられて笑っていると、後ろから肩を掴まれ引き寄せられた。

 てっきり有沢かと思った。
 ごめんという言葉が出る前に、香りがした。

「……探したぞ」

 耳にささやく低音に、心臓を鷲掴みにされる。
 こんな声の人、世界中に一人しかいない。

「姫条、俺に喧嘩売ってるのか?」

 葉月の登場に驚くでもなく、挑発する声が返される。

「ずいぶんゆっくりなご登場やな、春霞ちゃんの王子は」

 私は葉月の影に隠されて、二人の様子は見えないが、かなり険悪な空気だけは伝わってきた。

(珪クン、いつ来たの。
 仕事は?)
(後で)

 後でじゃないよ、もう!

「そう、俺が春霞の王子なんだから、ヒトの姫に手を出さないでくれるか」

 その台詞に私のほうが顔を赤らめてしまう。

「自分ら、まぁだ文化祭の演劇の続きやってんのか」

 あぁっ!そんな挑発したら、マズイって!
 珪クンは見かけによらず、喧嘩買っちゃう人なんだから。

「延長線、だって?」

 思ったとおり、葉月は棘のある言葉を吐き出そうとしている。

「葉月君、姫条君」

 意外な所からストップがかけられた。

「私たち、これから用事があるの」

 ありがとう、志穂サマ!!

「行って良いかしら?」

 二人ともお互いを牽制しながら、行けばという空気だ。
 しかし、葉月の手はしっかり私を掴んでいる。

 じゃぁね、と、有沢は踵を返した。

 ……て置いてくの?ねぇ!!?
 うそでしょ。
 志穂さんってば、今更Wデートの時の仕返しじゃあるまいし。
 守村が申し訳なさそうに会釈して、有沢を追いかけていった。
 かわい〜な〜、咲弥君。

 そして、このままは非常にまずい。
 ただでさえ、この二人は目立つのだから。

「ね、ねぇ!
 喫茶店にでもはいらない?」

 私の提案に姫条が時計を見て、残念そうに首を振った。

「悪いなぁ、これからバイトやったわ!」

 よ……よかったぁ。

 安堵する私に彼は右目でウィンクして続けた。

「カレシがかまってくれなくて、淋しかったら、いつでも電話せぇよ。
 昔みたいに」
「ちょ……っ!」

 とんでもない爆弾を残して、姫条は去った。
 あの赤いバイクで。

「昔みたいに……?」

 こわいよ〜っ

「な……奈津実に頼まれて、その……」
「そう」

 うぅぅっ、うたがってるよ〜っ 折角1週間ぶりに会えたのに。
 うらむよ、ニィやん。

「それより、仕事は?」
「抜けてきた」
「え?」
「だから、すぐ戻る。
 ごめん」

 しょんぼりとするので、それ以上どうしてとか追求できなくなってしまう。
 最も本人が自覚なしにやっているだけに、たちが悪いのかもしれない。
 私は嬉しいからいいけど。
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