GS:葉月/姫条/他
□神サマが見てる
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話終わってから、おまえは小さく呟いた。
「……ごめんね」
どうして、謝るんだ。
「……ごめんね」
繰り返される謝罪の言葉が、痛くて、痛くて、愛しくて。
でも、よせる唇はやっぱり拒絶されて。
「……神サマが見てる、から」
そう囁いて、おまえは祭壇まで駆けて行ってしまった。
「春霞……っ」
伸ばした手は、届かなくて。
おまえの笑顔もそのままで。
「『奥さん』失格、だね」
あんまり楽しそうに笑うから、オレ、動けなくて。
「家族、あげられなくて、ごめん」
祭壇の上で座って手招きするおまえに近づくと、抱き寄せられた胸のうちから、その心の中から泣き叫ぶおまえを見た。
「……そんなこと」
「罰が当たったんだ、きっと」
言っている意味がわからない。
春霞、おまえが今何を考えているのか、考えたくない。
「小さくても、教会であんなことしちゃダメだったんだよ」
――彼女の言う意味。
考えられるのはひとつ。
「ここで、おまえを抱いたことか」
ただ静かに、おまえはオレの髪を撫でている。
「だったら何故、オレでなくおまえが……」
これも罰なのか。
大切なものを愛しくて、近づきたくて、離したくなくて、誰にも渡したくなくて、おまえをオレのものにすることが?
「教会で、愛されて、授かったから。
だから、あの子は神サマのところに連れて行かれちゃったんだ」
目を閉じて、天を仰ぐ姿が神々しくて、そのままおまえまでどこかへ飛んでいきそうだった。
「春霞」
「――呼ばないで」
「どうして?」
もう名を呼ぶことさえも許されないのか。
「私、もう珪のそばに、いられない」
感情のない声で、ただ静かに告げられる。
「行かせない」
「家族に、なれない『奥さん』は」
「どこにも、行かせない!!」
「いらないでしょ?」
オレを見ているのに、実際は何もその瞳に映っていない。
頼むから、聖女のように微笑まないでくれ。
そんなおまえをもう見ていたくなくて、乱暴に引き寄せて口付けた。
祭壇から落ちるおまえを抱きとめて、逃げられないように強く抱きしめて。
始めは抵抗していたおまえが、抱き寄せてくれるまで離さないと思ったけど。
肩に触れた手は、躊躇して、抱き寄せてくれない。
「……っ」
「カギ、かけて」
「……?」
「どこにも、行かせない」
「……できない、よ」
どこまでも優しい声。
「珪は、優しい、もの」
酸素を求めて喘ぎながら、呟く。
オレの願う夢はどこまで残酷なんだろう。
おまえをオレだけのものにしておきたくて、オレだけを見ていてほしくて、何度も祈った。
――ずっと二人でいられますように、と。
そして、手に入れた家族はあっさりと願いの前に掻き消えた。
本当の家族になるはずだった。
本当の家族になれるはずだった。
でも、残ったのは心の壊れてしまった愛しい春霞だけ。
こんなのは夢であって欲しい。
きっと目が覚めたら、おまえは本当の笑顔で笑っていてくれると信じてる――。
「泣かないで、珪」
目の前の聖女は、そっとオレの涙を指で拭った。
* * *