GS:葉月/姫条/他

□神サマが見てる
2ページ/4ページ

 話終わってから、おまえは小さく呟いた。

「……ごめんね」

 どうして、謝るんだ。

「……ごめんね」

 繰り返される謝罪の言葉が、痛くて、痛くて、愛しくて。
 でも、よせる唇はやっぱり拒絶されて。

「……神サマが見てる、から」

 そう囁いて、おまえは祭壇まで駆けて行ってしまった。

「春霞……っ」

 伸ばした手は、届かなくて。
 おまえの笑顔もそのままで。

「『奥さん』失格、だね」

 あんまり楽しそうに笑うから、オレ、動けなくて。

「家族、あげられなくて、ごめん」

 祭壇の上で座って手招きするおまえに近づくと、抱き寄せられた胸のうちから、その心の中から泣き叫ぶおまえを見た。

「……そんなこと」
「罰が当たったんだ、きっと」

 言っている意味がわからない。
 春霞、おまえが今何を考えているのか、考えたくない。

「小さくても、教会であんなことしちゃダメだったんだよ」

 ――彼女の言う意味。

 考えられるのはひとつ。

「ここで、おまえを抱いたことか」

 ただ静かに、おまえはオレの髪を撫でている。

「だったら何故、オレでなくおまえが……」

 これも罰なのか。
 大切なものを愛しくて、近づきたくて、離したくなくて、誰にも渡したくなくて、おまえをオレのものにすることが?

「教会で、愛されて、授かったから。
 だから、あの子は神サマのところに連れて行かれちゃったんだ」

 目を閉じて、天を仰ぐ姿が神々しくて、そのままおまえまでどこかへ飛んでいきそうだった。

「春霞」
「――呼ばないで」
「どうして?」

 もう名を呼ぶことさえも許されないのか。

「私、もう珪のそばに、いられない」

 感情のない声で、ただ静かに告げられる。

「行かせない」
「家族に、なれない『奥さん』は」
「どこにも、行かせない!!」
「いらないでしょ?」

 オレを見ているのに、実際は何もその瞳に映っていない。
 頼むから、聖女のように微笑まないでくれ。

 そんなおまえをもう見ていたくなくて、乱暴に引き寄せて口付けた。
 祭壇から落ちるおまえを抱きとめて、逃げられないように強く抱きしめて。
 始めは抵抗していたおまえが、抱き寄せてくれるまで離さないと思ったけど。
 肩に触れた手は、躊躇して、抱き寄せてくれない。

「……っ」
「カギ、かけて」
「……?」
「どこにも、行かせない」
「……できない、よ」

 どこまでも優しい声。

「珪は、優しい、もの」

 酸素を求めて喘ぎながら、呟く。
 オレの願う夢はどこまで残酷なんだろう。
 おまえをオレだけのものにしておきたくて、オレだけを見ていてほしくて、何度も祈った。

――ずっと二人でいられますように、と。

 そして、手に入れた家族はあっさりと願いの前に掻き消えた。

 本当の家族になるはずだった。
 本当の家族になれるはずだった。

 でも、残ったのは心の壊れてしまった愛しい春霞だけ。

 こんなのは夢であって欲しい。
 きっと目が覚めたら、おまえは本当の笑顔で笑っていてくれると信じてる――。

「泣かないで、珪」

 目の前の聖女は、そっとオレの涙を指で拭った。



* * *
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ