GS:葉月/姫条/他
□神サマが見てる
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目が覚めると、そこはいつもの自分の部屋で、他には誰もいなかった。
今がいつなのか、まだオレは何の力もない高校生のままでモデルというバイトに縛られているのか、それとも春霞と共に未来を歩いているのか、判別しがたかった。
それほどまでに混乱していた。
夢に心乱され、今ここにいないコトが夢を肯定しているようで、無性に春霞に逢いたかった。
玄関のチャイムが鳴る。
誰だ、と思う。
でも、誰なのかなんとなくわかっていた。
もう一度鳴るチャイム。
予想が外れるとは思わない。
少し長い間を置いて、もう一度鳴る。
いつも、こんなにチャイムを鳴らしていたんだ。
カギをあけて、家に入ってくる音。
パタパタと走ってきて、オレの部屋のドアの前で止まる。
そして、控えめなノックで春霞が現れた。
「珪……珍しいーっ、もう起きてるなんて」
笑いながら微笑んでいるおまえはホンモノ。
じゃぁさっきのは夢だ。
後者であることにホッとして、笑みが零れた。
「もう、時間か」
春霞はオレが撮影に遅れないように、起こしに来てくれたのだ。
放っておくと、オレは寝過ごしてしまうから。
マネージャーに頼まれたと、言っていた。
「あれ……?」
気だるそうに起き上がると、なんの躊躇もなく近づいてきた春霞はオレの頬に触れた。
小さな手がなぞるのはオレのココロ。
「泣いてたの?」
不思議そうに目を大きくして、おまえ、それは失礼だろう。
「怖い夢、見た?」
哀しそうなおまえを見ているのは、いやだったから聞き返した。
「どうして?」
「だって、ここには珪クンしかいないもの」
申し訳なさそうに離そうとする手を捕らえて、頬を摺り寄せる。
「聞きたいか?」
話したかった。
話してしまえば、夢は現実にならない。
あんなのは二度とごめんだ。
「……いい。
撮影、遅れちゃうよ」
「まだ十分、時間あるだろ」
春霞がたっぷり余裕を持って、起こしに来てくれているのは知っている。
抱き上げて、ベッドに座って抱き寄せた。
何度もこうしているのに、おまえはやっぱり緊張している。
額に口付けると、完全に固まってしまって。
何度もこんなコトしているのに慣れないみたいだな。
「け、珪クン……」
「そのまえに、キス、していいか?」
思ったより、夢の中で拒まれているのは響いているみたいだ。
今まで、聞いたことなかったのに。
「ど、どうしたの?」
それはおまえにも伝わったらしく、戸惑った様子が返って来た。
「いいか?」
頷く顔が上がったところで、不意打ちのように触れると、驚いたと目が見開かれる。
どれだけ深く愛しても、オレは決して満たされないこと、気づいてる。
それでも、おまえと共にいたい。
共に未来を生きていたい。
そう願うのは、ダメか?
「一体、どんな夢、見たのよ?」
胸と肩を上下させて、でも嬉しそうに聞いてくる春霞をもう一度抱きしめる。
「……秘密」
「あのねー!!」
「……おまえが『奥さん』になる夢」
一瞬にして、顔が真っ赤になる姿は嬉しいけど。
「奥さん、ですか」
「イヤか?」
「…………いわせないでよ」
真っ赤な顔を胸に押し付けて、小さく囁く声が届いた。
――待ってる。
愛しい愛しいオレの姫。
あんな夢は絶対、現実にさせないから。
いつまでも変わらぬその笑顔で微笑んでいてほしい。
願うのは、おまえと本当に家族になる未来。