GS:氷室/マスター

□賭けの理由
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 暗闇で何かが私の手に触れてくる。
 何?温かい、大きな手。

「目を瞑っていては危ないぞ」

 零一さんの声だと思った瞬間、振り払っていた。
 本当はもうその腕にしがみついてしまいたい。
 安心して、しまいたい。

「東雲……」

 でも、それじゃせっかくのチャンスを不意にしてしまう。
 せっかくマスターさんが作ってくれたチャンスを。

「あいつの言ったのは冗談」
「にしないでください。
 私、本気なんです」

 声は横から心配そうにしている。

「だって、せんせぇはいつまでも私のこと、名前で呼んでくれないじゃないですか。
 賭けに勝てば、呼んでくれるでしょ?」

 マスターの持ちかけた賭けは、確かに魅力的だった。
 どんな手を使っても、零一さんは名前を呼んでくれなくて、半年以上が無為に過ぎた。

「私は賛成していないぞ」
「賭けは賭けです」
「そんなことのために、今、こうしているというわけか」
「そんなことじゃないです!!」

 飽きれたような声にムカムカして、思わず目を開いて零一さんを振り見ていた。

「そんなことだ」

 冷静に諭す声はもう、耳に入っていなかった。







 顔が、あった。







 血の気のない、白い顔が。



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