GS:氷室/マスター
□賭けの理由
2ページ/9ページ
暗闇で何かが私の手に触れてくる。
何?温かい、大きな手。
「目を瞑っていては危ないぞ」
零一さんの声だと思った瞬間、振り払っていた。
本当はもうその腕にしがみついてしまいたい。
安心して、しまいたい。
「東雲……」
でも、それじゃせっかくのチャンスを不意にしてしまう。
せっかくマスターさんが作ってくれたチャンスを。
「あいつの言ったのは冗談」
「にしないでください。
私、本気なんです」
声は横から心配そうにしている。
「だって、せんせぇはいつまでも私のこと、名前で呼んでくれないじゃないですか。
賭けに勝てば、呼んでくれるでしょ?」
マスターの持ちかけた賭けは、確かに魅力的だった。
どんな手を使っても、零一さんは名前を呼んでくれなくて、半年以上が無為に過ぎた。
「私は賛成していないぞ」
「賭けは賭けです」
「そんなことのために、今、こうしているというわけか」
「そんなことじゃないです!!」
飽きれたような声にムカムカして、思わず目を開いて零一さんを振り見ていた。
「そんなことだ」
冷静に諭す声はもう、耳に入っていなかった。
顔が、あった。
血の気のない、白い顔が。
*