GS:氷室/マスター
□怪盗Reiichi
2ページ/5ページ
確かに、これ三原君のに似てるかもしれない。
ドレスを着て、最初に思ったのがそれだった。
赤いドレスは思ったよりも窮屈でなく、端につけられた黒フリルが華やかさを演出する。
服の上につけられた薄い白のベールはむしろ邪魔だ。
依頼の前に、私が三原君とあったときにも、その後にも云われたことがある。
――アレは失敗作なんだ。
これほどのモノをデザインして、そこまでいう彼もどうかと思うが、これをもっと思索した結果がいつもの彼の服なのだろう。
「春霞、かわいーっっっ」
「よく似合うよー、春霞ちゃん」
「思ったより似合うじゃない。
まぁ瑞希には劣るけど」
「……いいんじゃない?」
会場に来ていた友人達が口々に褒めるのもなんだか空の上みたいだ。
人が多すぎて、葉月君じゃないけど気分が悪くなってくる。
「そういえば、知ってる?」
「えー何?」
「怪盗Reiichiが今日、来るんだって!!」
奈津実の言と同時に私は、グラスを落としかけた。
(やばっ、ドレスに落ちる!!)
そう思った時には、ゆったりと落ちるグラスが妙にスローモーションで、それをキャッチしたのは、姫条君で。
奈津実になんとなく睨まれてしまって。
「あぶないなぁ。
せっかくのドレスに落としたらアカンで?」
「あ、ありがと」
「しっかし、ホンマよう似合うとるわ。
なんやっけ、タイトルの、んー貴婦人のドレス?」
窓の外から、一際大きな風が吹いてくる。
大きいけれど、しっかりとはめられたガラスはカタリとも音を立てない。
「芸術祭の賞総ナメやってんな。
すごいな、三原の」
「姫条!違う違う!!これ、斎藤ってやつのだよ!」
慌てて、奈津実は姫条の口にフランスパンを突っ込んだ。
て、丸ごと1個はマズイでしょう。
「アホ!人を死なす気か!!」
姫条の叫びと窓ガラスが一斉に割れる音が重なった。
風が一気に室内に流れ込み、私の着ていた白のヴェールを剥ぎ取る。
「時間通りね」
時計を見ながら有沢が呟くのが聞こえた。
「約束通り、姫を迎えにあがりました」
言葉と共に、羽根の軽さで彼は私に傅いている。
彼を中心に時が止まったような錯覚を受ける。
怪しげな黒い光沢のあるマントを羽織っていても、その身のこなしは鮮やかな印象で。
顔半分を白いマスクで覆っていても、その丹精な顔は隠しようもなく。
ただ闇夜に浮かぶ月だけが、変わらない紫銀の髪を照らしている。
「観念しろ、怪盗Reiichi!!」
風にさらわれるままに、私の身体が浮き上がる。
マントに越しに氷室の温かさが伝わってくる。
「……きちんと捕まって、目を閉じていなさい」
小さく命じられるままに、顔をマントに埋めた。
喧騒があっというまに聞こえなくなる。
あとはただ、風の音のみ通りすぎてゆく。
「東雲、目を開けなさい」
聞こえる声はいつもより優しい。
教師としてではない、怪盗でいる間だけ氷室は優しい。
開いた目の前には大きな月と、それよりも大きな時計があった。
はばたき市にある一番大きな時計台の近くの屋根に、私は立っていた。
高いところは別に怖くない。
でも、手を離されたら、死んでしまう。
「離さないで、ください」
「離しはしないさ」
一瞬離れた手が私を引き寄せる。
身体が、宙に浮く。
「もう引き上げるぞ」
マントの中に包まれて、私は何も見えなくなった。
* (遠坂アキラさん作:怪盗Reiichi)