GS:氷室/マスター

□ココロの境界線
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 動こうとすると、抱きしめる手に力がこもる。
 引き剥がそうとすると、聞いた事もないくらい甘い声が、吐息がかかる。

(ど、どうしよう……)

 あたしは零一さんの腕の中で、もうすでに混乱している。
 熱に浮かされて、もうらしくない予測不可能な事態ばかり起きてしまって。
 最終手段で昔、弟にしてやったように背中を叩いてあげたんだけど。
 まぁそれも成功で、零一さんからやすらかな寝息が聞こえて、子供みたいなあどけない笑顔に見惚れちゃったんだけど。

 抱き枕よろしく眠られていることに気がついた時には、すでに手遅れで。
 どう動いても、離してくれない。

「零一さん」

 小さく声をかけても目を覚まさない。
 ただ愛しそうに、守るように抱きしめられて。

 至近距離の零一さんの顔は、幸せそうで楽しそうでいつもと全然違って面白いけど、あたしのときめきがジェットコースターより早くなってく。

「零一さん、離してください」

 小さく囁くと、うわごとのままに拒否される。
 うっすらと開いた瞳は飴玉よりもとろけて、眼差しであたしは止めをさされる。

「もぅ、どっちが子供なの」

 重ねた唇から伝わってくるのは、以外に熱でなく冷たい感触。

 無意識に抱き寄せられ、あたしたちは熱に浮かされキスをする。

 正気だったら、きっと怒るね。

 でもあたし、目の前で倒れられるのはこれっきりがいい。

 目を覚ましたら、いつものアナタに戻って。

「……春霞」

 その瞳で、その声で、その腕で、これ以上あたしを狂わせないで。



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