GS:氷室/マスター

□恋と愛の境界線
2ページ/4ページ

 隣りで店主がほっと息をついている。
 それについては、後で追求するとして。

 はっきり云って、驚いた。
 いくら彼女がもと吹奏楽部員だったとしても、パートはフルート。
 ピアノを触った姿は見たこともない。
 以前聞いた時は、習ったこともないから無理だといわれたのを記憶している。

 しかし今はどうだろう。
 滑らかに指は滑り、心地好い音を奏でる。
 俺の中の音と噛み合うように、全部で歌っている。

 ロウソクに火を灯すように光放つ。
 薄暗い店内が、彼女の放つ目映い輝きに包まれる。

「零一、顔が赤いぞ?」

 ピアノの音階の奥底に、俺は答えを見つける。
 言葉以上に強く温かい春霞の言葉を受け取る。

 一心にピアノに向かっているのに、俺にはその声だけが聞こえる。



――好きです、零一さん。



 強く囁き、包み込む。
 この手に包むより、春霞の腕に包まれるより、もっと強くもっと深く。



――私は零一さんを愛しています。



 俺のすべてを包み込む、その包容力。

 きっと俺は一生、君に敵わない。



* * *
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ