GS:氷室/マスター
□恋と愛の境界線
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隣りで店主がほっと息をついている。
それについては、後で追求するとして。
はっきり云って、驚いた。
いくら彼女がもと吹奏楽部員だったとしても、パートはフルート。
ピアノを触った姿は見たこともない。
以前聞いた時は、習ったこともないから無理だといわれたのを記憶している。
しかし今はどうだろう。
滑らかに指は滑り、心地好い音を奏でる。
俺の中の音と噛み合うように、全部で歌っている。
ロウソクに火を灯すように光放つ。
薄暗い店内が、彼女の放つ目映い輝きに包まれる。
「零一、顔が赤いぞ?」
ピアノの音階の奥底に、俺は答えを見つける。
言葉以上に強く温かい春霞の言葉を受け取る。
一心にピアノに向かっているのに、俺にはその声だけが聞こえる。
――好きです、零一さん。
強く囁き、包み込む。
この手に包むより、春霞の腕に包まれるより、もっと強くもっと深く。
――私は零一さんを愛しています。
俺のすべてを包み込む、その包容力。
きっと俺は一生、君に敵わない。
* * *