すばらしきこのせかい
□宵待ち草
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(BL・羽音・ネク視点)
現実世界に戻って、シキたちと会って。
オレ達は笑っていた。
ビイトもライムも楽しそうで。
そして。
誰も、あの二人の事は口にしなかった。
それからも時々、シキ達には会ってる。
でも、一人になるとオレはあの場所に向かう。
もういない人に会う為に。
閉じられた店はシャッターが下りていて、中をうかがうことも出来ない。
オレはそこに着く度、シャッターに歩み寄り、コツンとおでこをぶつける。
「ハネコマさん…。」
この胸の中の虚空はなんだろう。
前に友達を事故で亡くした。
その時に感じた虚無感とは別の物だ。
何だろう…。
おでこをシャッターに付けたまま、涙を堪える為に目を閉じる。
───その時。
「ちょっと、どいてくんねーかな?」
後ろから声を掛けられた事と、その声が知った声である事に驚き、オレは跳ねるように振り向いた。
「…ハネコマ…さん…」
「久しぶりだな、ヘッドフォン……ってそんな久々でもないか。」
ハネコマさんはシャッターの鍵を開けた。
「何だ? ヘッドフォ…ああ、そーいやヘッドフォンしてねーな。…で、お前もしかして毎日ここに来てたのか?」
慌てて首を横に振る。ホントは毎日来てたけど。
「と…時々、…かな?」
「へえー。」
ハネコマさんが口の端を上げたから嘘がバレたかと思ったけど、もうハネコマさんはそのことには触れなかった。
促されて店内にはいると、中はあの時荒らされていたのが嘘の様に元通りになっていた。
「また店を、やるんですか?」
「俺の仕事、だからな。」
店をやるということは、またあのゲームをやるんだろうか。
そもそも、ヨシュアはまだあの位置に居るんだろうか。
聞きたいことは山程ある。
でも、どう聞けばいいのか、聞いてもいい事なのか、考えあぐねてオレは黙っていた。
「何だよ。話があるから、ここに来たんじゃないのか?」
「…あ…ああ…。」
オレが黙りこくってる間に、ハネコマさんはコーヒーを入れてくれた。
そして、カウンター席に座るオレの前にカップを置いてから、思い出した様に砂糖とミルクも入れてくれた。オレの好みに合わせて。
「ありがと。」
礼を言うと、ハネコマさんはニヤッと笑った。
「お。ちったあ、素直になったか?」
「!? オレ、そんなひねくれてなかったろ? 礼くらい言うよ。」
「そーだったかなあ。うちのマフィンやった時、ひとっことも礼がなかったけどなあ。」
「あ、あれは…その…」
…嫌いなんだよ、あのマフィン…。
またハネコマさんはニヤッと笑って、奥へ引っ込んだ。
どうしたんだろう、と思いながらコーヒーを一口すする。
ハネコマさんは、すぐに戻ってきた。
そして。
「ホイ。」
出されたのはマフィン。
「ブッ!!」
吹き出してしまった。
「おいおい。大丈夫か?」
ゲホゲホとむせるオレの背中を叩く為に、ハネコマさんはカウンターから出て隣りに座った。
う…;カッコ悪い…。
ポンポンと背中を叩かれて咳が治まると、オレは恥ずかしくてまともにハネコマさんの顔が見れなかった。
「ま、コーヒーのお供に、食えや。」
もう一度差し出されたマフィンをどうしようか迷っている間に、ふと疑問が浮かんだ。
「…あれ…? これ、いつ作ったんだ?」
「今。」
って、数分しか経ってないだろ!?
「なわけないだろっ!」
オレが目一杯否定すると、ハネコマさんは言った。
「じゃあ、昨日。」
「じゃあって何!? それに昨日は居なかっただろ!?」
さっきは荷物持ってなかったから、今持って来たわけはない。
ハネコマさんはイタズラっぽく笑って、また言った。
「じゃあ、おととい。」
「嘘だろ! おとといも居なかった!」
だんだんマフィンの製造日が怪しくなってきて、オレはそれを食べない事に決めた。
マフィンを無視してコーヒーを飲んでいると、ハネコマさんは頬杖をついてこっちを眺めていた。
そしてまた、ニヤッと笑う。
「やっぱり素直じゃないな、ネク。」
「はあ!?」
何を言いたいのか、さっぱり解らない。
「…来てたんだろ? 毎日。」
「!!」