ガンダム00

□一片の花弁
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 自分のシミュレーションを終えてティエリアが休憩室に行くと、そこにある机にミレイナが突っ伏していた。
 眠ってしまっているのだとすぐにわかり、そっと近づく。
 見ればミレイナの手の下にはコンピュータプログラムについての難しい解説書が開いてあった。
 ティエリアでさえそれを読破するにはかなりの時間を要するだろうという代物だ。
 突っ伏した体の下にはレポート用紙があり、右手にはペンが握られていた。
 普段からよく勉強しているのだろうと解る、綺麗なまとめ方をしてある。
 こんな小さな子がどれだけの努力を強いられてきたのだろう、とティエリアは心が痛んだ。
 不憫に思う。
 でも、ここから抜けさせる方法として、冷たくする以外思いつかない。
 再三の抗議はしたが、何故かティエリアの意見に積極的に賛同する者がいなかった。
 他に人材がいないというのが最大の問題だったのかもしれない。

 あれこれと考えながら、ティエリアは収納からブランケットを出した。
 このまま放っておいて風邪をひいたらそれを責めることもできるが、流石にそれは可哀想な気がする。
 病気というのは体だけでなく心も蝕むのだとどこかで聞いた。
 そこまで追い詰めるわけにはいかない。
 そっとブランケットを掛けると、ミレイナはピクッとまつ毛を揺らした。
 ドキッとする。
 さっさと立ち去るべきかと思ったが、部屋から出る前にミレイナは目を開いてしまうだろう。
「ん…。ハッ!しまったですっ!」
 寝てしまっていたことを後悔したらしく、そう言って急いで体を起こす。
 そこでブランケットに気付いたようだった。
「…あ…ああっ!アーデさんっ!もしかして、掛けてくださったですか!?」
「…あ…あ、………だらしなく寝ているのを見かけてしまったからな。」
「すみませんですっ。ありがとうございますですっ!」
 立ち上がって深々と頭を下げるミレイナにどう返していいか分からず、ティエリアはプイっと顔を背けた。
「…無理をしている様だ。………そんな風でやっていけるとは思えないな。本気で抜けることを考慮すべきだと思うが?」
「…すみませんデス…。」
 消え入りそうな声でそう言って、ミレイナはすとんと椅子に腰かけた。
 その様子に、今なら説得に応じるのではないかという気がしてティエリアは向かいの席に座る。
「君はそんなに無理をして頑張っているが、そんなギリギリな状態では現実のミッションをこなせないんじゃないか?」
 ショボンとしたまま、ミレイナはまた「すみませんです。」と謝った。
「謝罪が聞きたいわけではない。能力的に、君には無理だと言っている。君がここを去ると言えば、人材は他から探してくるはずだ。君ぐらいの人間なら五万といるだろう。」
 本当は他の人材があるかどうかティエリアには分からない。
 こんな子供をよこすぐらいなのだから、人材がないと考えるのが妥当だろう。
 ミレイナは唇に力を入れて黙っていた。
「大体君は分かっているのか?私達は戦争をする組織だ。つまり、人を殺すという事だ。君が自分の手で人を殺すことはなくても、私達が殺す以上、同罪なんだぞ?子供が軽い気持ちで参加することではない。」
 そこまで言ったところで、ティエリアはミレイナの様子をじっと窺った。
 きっとこの子は単に父親の手伝いがしたいという理由で来たに違いない。
 ここに居る重みを知らなかったのだと。
 すると、ミレイナはややあって顔を上げた。
 その顔はきりっと引き締まって見えた。
「軽い気持ちではないです。ミレイナはミレイナなりの考えでここに来たです。パパもママも反対したけど、それでも、参加したかったのです。」
 今まで見たことのない、強い眼差しにティエリアは気圧されていた。
 目を逸らして言う。
「大人ぶってそんな事を言うものではない。後悔することになる。」
 でも、とミレイナは言った。
「確かに子供ですけど…きちんと考えたです。今の世の中を変える為にCBの活動は必要なことだと思ったです。」
「イアン・ヴァスティの受け売りだろう、それは。」
「…違うです。自分で思ったです。」
「信じられないな。」
 冷たく言い放たれて、また暫し黙る。
 しかし、ミレイナはいつもより落ち着いた声で、静かに話しだした。
「これは…パパとママ以外には言ってない話なんですけど…。」





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