その他

□花帰葬
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(ゲームをコンプリートする前に書いたものなので、世界の設定が少し違います。一つのエンディングをもとにしています。)




***悠久の時の中で***




「玄冬、今回は面白くなりそうだよ。」
 黒鷹は空を見上げて言った。


 玄冬が生まれるたび必ず玄冬を殺す、と約束してしまってから、一体どれだけの年月が経ったのだろう。
 白梟でさえ、育っては殺されてしまう玄冬を哀れだと言うようになった。
 黒鷹は自分の中に罪の意識を隠し、玄冬に対しての愛しさと哀れみを隠し、彼が生まれたことを知ると自分の手で育て、そして死に追いやる。


「どういうことですか! 黒鷹!」
 白梟が血相を変えて塔にやってきた。
「どうって、報告した通りですよ?」
 いつもの様に、黒鷹は笑顔で応えた。
「じゃあ…本当に…。…では、あなたは何をしているのです! 早々に探して見つけていらっしゃい!」


 玄冬がいなくなった。
 出入り口のない塔から出られる筈はなかったのに、黒鷹が出掛けている間に何者かが結界を破り、塔の一部を壊してさらっていったらしい。
「いやあ、私がいなかったとはいえ、結界を破って塔を壊すとは、なかなか見上げた人間もいるものだ。ハッハッハ。」
「黒鷹! 何を悠長なことを言っているのです! あなたには玄冬の居場所が分かる筈でしょう!? すぐに連れ戻しなさい!」
 黒鷹はまた笑った。
「ハッハッハ。いや実はね、私は今、迷ってしまっていてね。どーしよーかなー。」
 二人の会話を見守っていた救世主が口を開いた。
「タイムリミット、近いんじゃないのかい? 黒鷹サン。」
「ふーん、まあ、そうなんだけどねぇ。君はどう思うんだい? 救世主くん。」
「どうって、オレが玄冬を殺さなきゃこの世の終わりだろ? ヤる気は満々だぜ。」
「ふふーん。」
「何だよ、その笑いは。」
「いやはや、君はうわさ通りに冷酷無比だねえ。」
 黒鷹は腕組みをしながら、また楽しそうなえみをうかべた。
「どーも、それは褒め言葉だな。…にしても、玄冬、今17だろ? さらわれたんじゃなくて自分で付いて行ったんじゃないか?」
「おや? 玄冬は今、5つだよ。」
「!?」
 救世主は白梟の顔を見た。彼女も驚いている。
「…黒鷹、あなた…私をたばかりましたね?」
「おやあ? そうだったかなー。」
「私が見に来なくなったのをいい事に、生まれてもいない玄冬が生まれたと…。お陰で…お陰で私はっ!」
 黒鷹は肩をすくめた。
「何か不都合でも? どうせ救世主に殺されるのは一緒なんです。問題ないでしょう?」
「救世主は今、18です。一つしか違わない相手がもし本気で抵抗したら…。玄冬もそれなりの力を備えているのです。万が一ということを考えて、私はこれが幼い時から訓練をさせていたのですよ!?」
 ふふーん、とまた笑った。
「なるホド、それでこんなに冷血にねえ。おみごとです。」
「黒鷹!!」
 白梟の手は、怒りに震えている。
「まあまあ、そう怒らずに。」
「もう信用できません。すぐ玄冬をお探しなさい! 今すぐ!」
「信用できない、か。何度目でしたかねえ、あなたにそう言われるのは。」
 カチンときて、白梟は冷静に言った。
「良いのですか? 約束は。」
「……。」
「玄冬との約束を反古にしてしまうのですか? 本当にそれで良いのですか、黒鷹。」
「相変わらず…、痛いトコ突きますね、あなたは…。」
 黒鷹は少し真顔になり、胸のポケットから紙切れを出した。そしてまた笑顔を作る。
「面白い事になってるんですよ、今回。」


 黒鷹が出した紙には、玄冬をさらって行った者達の声明文のようなものが書かれていた。
「要約するとこうです。」
“人間は愚かにも争いを繰り返す。人を殺しすぎれば世界が終ると知りながら、‘玄冬’さえ死ねばそれも回避できると、その理に便乗している。世界は荒れ、人の心は荒む一方である。そんな愚かな世界に終わりを。玄冬様だけがこの世界を浄化できる唯一の方である。”
 白梟も救世主も押し黙った。
「ね。面白いでしょう? 人間自身が滅びを望んでいるんですよ。そんな世界を守る事に、どんな意義があるんでしょうねぇ。──で、悩んでいるんですよ、私は。玄冬との約束を取るか、今の人間たちの望みを取るか。」
「オレはどっちでもいいぜ? 人間が愚かだってのは大いに賛成だしな。」
「救世主! 何ということを言うのです!」
 白梟は震える手を腹部に押さえつけ止めようと試みたが、震えは治まらない。言葉を絞り出した。
「でも…、それでも…、この世界を守る事が私と救世主の役目です。」







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