すばらしきこのせかい

□蕩ける、痛み
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(尾→来・切なめ・バレンタイン・季節フリー)



居間からでも分かるチョコレートの香り。
隣のキッチンではライムがエプロンをして忙しそうに動き回っていた。

ビイトは、さっきから気にならない風を装いながら、どうしても目が離せなかった。



蕩ける、痛み



「えぇっと、次は…」
妹の声と一緒に聞こえるのは本をぱらぱらめくる音、パタパタというスリッパの音。

「ライム、」
「なあに、お兄ちゃん」

お兄ちゃん、…ああそうか、そうだったよな

ライムは―――ビイトが兄だという事を思い出した。
だからもう『ビイト』と呼ばない。
ビイトにとって、それは嬉しいことである筈なのに、『お兄ちゃん』と聞く度になんだか寂しい気持ちになった。

「手伝おうか」

試しに聞いてみると、ライムは、ううん、いいよ。大丈夫と答える。

ライムが作っているのはバレンタインのチョコだから、当然だろう。ビイトも元々手伝えるとは思っていなかった。

ストーブの熱で部屋が鬱陶しいほど暖かい。
暖かいのは悪い事じゃないが、チョコレートの甘ったるい香りと合わさって軽く頭痛を覚えていた。
それに追い討ちをかけるように、胸の痛み。物理的な物ではなく、心理的なモノだ。
なんなのか、わからない。
どうして痛いのか、どうして苦しいのか。


…どうして、折角生き返ったのに、またUGに二人で落ちたいと願っているのか。


―――違うよ、ビイト。


あの一週間を思い出して、大きな溜め息を吐く。


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