すばらしきこのせかい

□雛祭り
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(ヨシュネク/アンケート一位記念?/もう過ぎちゃったけど雛祭り)







「待ったかい?ネク君。」

 呼び出された場所に時間通りに行ってみれば、10分も待たされた。
 そして最初の言葉があれである。

 ネクはムッとして答えた。
「ああ。たっぷり10分間。」
 ヨシュアはふふふ、と笑って自分の前髪を指に絡めた。
「相変わらず細かいね。」
 別に細かくもなければ、前からそんな風でもない筈だ。
 そう言い返そうかと思ったがやめておいた。
 ふう、と溜め息をついて訊ねる。
「で?何の用だ?」
「友達に会うのに理由がいるのかい?」
 またネクはムッとする。
 電話では、用があるから出て来い、と言っていたのだ。
 そんな様子も気にせず、ヨシュアは踵を返した。
「さあ、行こうか。」
「…お、おい…。」
 ネクが立ちつくしていると、彼は数歩歩いてから「来ないの?」というような顔で振り向き、何も言わずにまた歩き出す。
 小さく舌打ちして、ネクは後に続いた。







 マンションの一室に着くと、そこには料理が用意してあった。
「…?…おい、ヨシュア…?」
「ん?あれ?」
 ネクの戸惑う顔に今気付いたかのように、ヨシュアは首を傾げた。
「ネク君、今日が何の日だか知らないのかい?」
「…いや、雛祭りだろ?それは知ってるけど…。」
「なら良かった。じゃあ、始めようよ。」
 座って、と指された場所に腰かける。
 小さなテーブルは昔よくドラマで使われたようなちゃぶ台をそのままコンパクトサイズにしたようなものだった。
 ヨシュアは真向かいより少し近い場所に腰を下ろした。
 いつもと同じ笑みを向けるヨシュアに、ネクは訝しげだ。
「どうかしたのかい?ネク君。」
「…用ってこれのことだったのか?」
「そうだね。今日は雛祭りだから君を呼んだ。そう言う解釈で問題ないと思うよ?」
 だったらシキ達も呼べばいいじゃないか、女の子が主役の行事なんだから。
 そう思いはしたものの、わざわざ言ってどうなるというわけではないだろう。
 ネク自身、じゃあみんなを呼ぼう、なんて行動派な性格ではないし、ヨシュアもそんなに積極的に人に連絡を取るタイプではない。
 第一、用意された料理はどう見ても二人分なのだ。
 ヨシュアはまた、ふふっと笑った。
「どうして自分だけ呼ばれたのか、とか思ってる?」
「ん?…まあ、うん。」
「理由はいずれ分かるよ。それより、ネク君?」
 いつもの涼しい目で覗き込まれ、ネクはふいっと視線を合わせた。
「何か足りないと思わないかい?」
「?」
 何か、と言われ、ネクは周りを見回した。
 これと言ってなくて困るものはないが、あえて言うならあれだろう。
「…雛飾り…か?」
「そう。流石ネク君。…というわけで、これ、着てくれるかい?」
 差し出された物を見て唖然とした。
「!?な、なんでだよ!!」
「足りないものを補充するためだよ。着てくれないと困るな。」
 それは女物の服だった。
「ちょっと待て。別に雛飾りがなくても問題ないだろ?」
「大ありだよ。折角雛祭りに託けてネク君を呼び出したんだから、雛祭りらしくしなくっちゃ。」
 ヨシュアの言葉にまた引っ掛かり、ネクは語調を強くした。
「お前っ、今、『かこつけて』って言っただろ!」
「え?ああ、言ったね。」
「つまり、本来の目的はそれじゃなかったってことだよな!?」
「…それは…。」
 ヨシュアは一旦言い淀んでから、ニコッと笑った。
「そう言えなくもない、というところかな。…どうでもいいじゃない。細かいな、ネク君。細かい事は気にしないで、これ着てくれないかな。」
「だから何でこんな物を…。」
「だから雛飾りの代わりだよ?」
「いやだ!」
「何言ってるのさ。あのゲームの時はとんでもない着合わせ方してたくせに。アレに比べれば、ちゃんとしたファッションなんだから問題ないでしょ?」
 確かにあの時はあり得ない服装をした気がする…。
「あれは防御力やら何やらを上げる為に仕方なく…。大体、あの時は他の人間に見えなかったから出来たんだ。」
「今ここには僕と君だけじゃない。あの時となんら変わらない。シキちゃんたちがいない分、まだいいとも言えるんじゃない?」
「…そ、それはそうだけど…。」
「君に似合いそうな服をわざわざ選んで用意したんだよ? 勿体無いじゃない。」
「大体それ、洋服だろ!? 雛人形は着物なんだから、代わりになんか…。」
「あれ? ネク君、自分で着物着れるの?」
 いきなりヨシュアが素朴な疑問を投げかけた事に一瞬戸惑って、ネクは素直に返事をした。
「…いや、着れないけど…旅館の浴衣ぐらいなら…。」
「でしょ? はい。」
 ポン、と服を渡される。
「は?」
「着物を着るのは無理だろうけど、これなら着れるよね?」
「だから嫌だって…。」
「ホントは和服のところを百歩譲って洋服にしてあげたんだよ?僕の配慮を無下にするのかい? 折角用意した料理もダメになっちゃうじゃない。早くして欲しいな。君が着替え終わるまで食べずに待ってるから、急いでね。」




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