ガンダムSEED,DESTINY
□快楽
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(BL・オルシャニ・シリアス)
オルガがいつもの様にベッドに寝転がって本を読んでいると、シャニが帰って来た。
何も言わず音楽プレイヤーのイヤホンを耳につけ、自分のベッドに上がる。
シャニがスイッチを入れる前にオルガは尋ねた。
「クロトは?」
シャニは面倒臭そうに答える。
「実験室。新しいクスリ試すんだってさ。」
一回区切り、思い出したようにまた続けた。
「ニ、三日帰って来ないよ。」
次の段階のクスリか。
オルガはまた本に集中した。
シャニはプレイヤーのスイッチを入れると、壁にもたれ膝を抱く。
しばらくすると、オルガはシャニに目をやった。
膝を抱くシャニの目は何を見るというわけでもなく、ただ一点を見つめ、その耳につけたイヤホンからは絶え間なくリズム音が漏れている。
リズム音しか漏れていないとは言え、こんなにはっきりと周りに聞こえると言う事は、あのイヤホンからはどれくらいの音量が出ているのだろう。
オルガは度々そう思うのだが、本人に聞いてみたことはない。
彼にとって、シャニが好んで聴いている音楽はただうるさいだけで、なぜそんなに好きなのか理解が出来ない。
ふと思う。
シャニがあれを好きになったのは、いつなんだろう。
前から好きだったんだろうか。
もしかしたら、実験体になってから研究員が何らかの目的でシャニに与えたのかもしれない。
だとしたら…。
シャニの頭の中は音の洪水で掻き回されて…、だから、あんな虚ろな目をしているんだろうか。
オルガは依然本を顔の前にかざしたまま、盗み見るようにシャニを眺めた。
三人の中で一番薬物のレベルが進んでいるのがシャニだ。
その事が見ていて分かる程、シャニの様子は明らかにおかしい。
オルガはそれが気にかかっていた。
自分もいずれそうなるのだという事もあるが、シャニが“末期”だという事を感じ取ってしまったからだ。
滅びに向かっているのだ。
オルガは自分の中にもある異常さを思い起こしてみた。
戦闘に出ると、興奮するのが自分でも分かる。
自分の撃った弾で死ぬ人間がいるのだと考えると、心が踊るのだ。
思わず笑いが込み上げる。
あれは快楽だ、と思う。
敵機を撃破する度、ある種の快感が体を駆け抜ける。
それを求めて、自分は戦闘に出ているのだろう。
世の中には人を殺すのを嫌がる奴がいる、という事は知っている。
というより、それが正常なのだと頭では理解している。
それでも、あの快楽は忘れられない。
できれば、この手で直接殺したいくらいだ。
そんなことを考えながら見ていると、シャニが急に動いた。
見ていた事を悟られないように、パッと視線を本に戻す。
シャニは珍しく音楽を流したままイヤホンを外すと、ごろんとベッドに寝転がった。
「きのーの戦闘さあー。」
自分から話しかけるのも珍しい事だ。
「ん?」
オルガは遠慮がちにシャニの方に目をやった。
「オレ、すげー良かったんだけどー。」
良かった、とは快楽のことだとオルガは解った。
「ときどきさあー、声、聞こえるんだよねー、敵の。オルガ聞こえねえ?」
「…いや、それはねえけど…。」
「そーかー? 悲鳴とかさ、助けてくれ、みたいなやつ。断末魔ってゆーの? きのーいっぱい聞こえてさー。すげー良かった。ぞくぞくした。次の出撃いつかなー。」
敵機の兵士の声など、通信でもしていない限り聞こえるわけがない。
幻聴なのだ。
オルガは、そのうち自分にも聞こえるようになるのかと思いながら、本を置いて立ち上がった。
ゆっくりと近付き、くてっと横になっているシャニのすぐそばに手をつく。
「しばらく出撃はねえって言われたろ?」
「あー、だからクロト実験されてんのか…。」
ジャカジャカと、外したイヤホンから音が漏れている。
やっぱり大音量だ。
ククッとシャニが笑った。
「何だ?」
「なー。今度の出撃さあ、敵兵一人殺さずに連れて帰ろーかなー。」
「何でだ?」
またシャニはククッと笑う。
「なぶり殺し、やってみたくね?」
オルガはそっとシャニの頬に手をやり、上体を近付けた。
「ああ、そうだな。」
やっぱりオレ達は一緒だ、とオルガは思った。