ガンダムSEED,DESTINY
□circulation
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(世界感のみ・シリアス)
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1
彼女は空を見上げていた。
空、と言っても、地球から見上げている空ではない。コロニー内部の人工の空だ。
彼女はその空を通して、宇宙に想いを馳せるのである。
夫が事故で死に、一人息子が軍人になってから、彼女の庭で空を見上げる時間は多くなった。
「全く…、あの子ったらちっとも帰って来ないんだから…。」
家政婦がお茶を運んで来る。テーブルの上にカップを出しながら、「奥様、お寒くございませんか。」と尋ねた。
大丈夫、と答え、お茶を一口飲む。
にこっと笑って見せると、家政婦は会釈をして家に入った。
戦争が終わったことをテレビが告げたその日、イフリーのところに息子のフューイから手紙が届いた。
本当に久しぶりの手紙。彼女は踊り出しそうな衝動を押さえ、庭のイスに座ると封を切った。
「…もうすぐ…帰ります…。もうすぐ! 帰るのね!? 何ともなかったのね、良かった…。」
内容は、戦争が終わった事、事後処理などの後いつごろ家に戻れるかという事、そしてもう一つ、少し気掛かりな事が書いてあった。
「…だからって…、どうするつもりかしら、あの子…。」
フューイのいる部隊は、一隻の敵艦を拿捕[ダホ]していた。その乗員は当然捕虜になるのだが、利用価値のある者は部隊に残された。その中に整備見習いの少女がいた。
セイナというその少女は、機械好きで、ナチュラルとは思えない程の知識と技術、そしてカンを備えていた。しかし、まだ15才という事で地球軍では見習い扱いだった様だ。
『ナチュラルというのは、なかなか面白い人種です。』
フューイは手紙にそう書いていた。
機械に関する事には飛び抜けた能力を見せるセイナだが、他のところはまるっきり抜けているのだ、と。
『能力にムラがあるのが、ナチュラルの欠点なのでしょうか。』
一通りのセイナについての説明の後には、こんな事が書いてあった。
『戦争が終わり、捕虜達は国に帰される筈ですが、彼女は帰る場所がないそうです。両親とも既に亡くなっていて、身寄りもなく、恐らく彼女を探している者さえいないだろう、という状態だそうです。』
だからどう、という様な事は手紙にはなく、それだけで締めくくられていた。
二日後、フューイから電話が入った。
『取り敢えず、連れて行くから。』
いつもイフリーの思考の範疇に無いことをするフューイ。
息子の突拍子のない行動に、振り回される事が嬉しくもあり、嫌でもあり。
それでも、年頃の息子が女の子を連れて来るのだから、少なからず気があるのだろうと思うと、その相手を是非見ておかなくてはとも思ってしまう。
「ホント、困った子だこと。」
嬉しそうにそう呟くと、イフリーは息子が帰る日に向けて、迎えの準備を始めた。
2
帰って来た直後こそ抱きしめ合ったものの、フューイはあっさりと、そして素っ気なく仕事に戻って行った。
後にはセイナが残された。
イフリーの予想に反して(大抵の場合、フューイは彼女の予想を裏切るのだが)、セイナは少年のような少女だった。
男勝りな口調に座り方に歩き方、全てにおいて、セイナはイフリーの眉を歪めさせる。
イフリーが嫌な顔をしているのに気付いているのかいないのか、セイナはあっけらかんとしていて、彼女の事を平気で「おかあさん」と呼ぶ。
その度にイフリーは、「私はあなたの母親じゃありませんよ。」とイジ悪く言ってみるのだが、返事はいつもこうだ。
「…だよねー。わりぃね、おかあさん。」
ハア…。
全く…フューイったら…何を考えているのかしら…。
セイナは数日間を気ままに過ごすと、今度は朝から晩まで出かける様になった。
何日もそれを続けるのが気になり、イフリーは尋ねた。
「いったい、どこに何をしに行ってるんです?」
セイナは少し困った笑顔を見せた。
「…仕事、探してんだけどさ。…なかなか…ね。」
驚いて何も言わないイフリーに、セイナはもう一言付け加えた。
「あんま、世話になってるワケにもいかないから、サ。」