すばらしきこのせかい

□つぶやく非現実
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(ヨシュアとネク)


高い日差しは熱をもって降り注ぐ。それを吸収したアスファルト道路は遠くに逃げ水を作っていて、競うような速さで歩き続けるこの街の人々は暑い暑いと唸りながら実は自分達で地上を保温していたりするんだよね。
いやになる暑さだな、なんて思っていると前方に見えるヘッドフォンをつけた頭が振り返って、何を言い出すかと思えば「暑くないのかよ」なんて。

「暑いね」

意外と朦朧としてる意識のなかで、また新たな熱を織り成すように僕は答えたけど、ネク君は眉を潜めて「見えない」と文句を言った。
それってもしかして八つ当たりなのかなあ。ちょっと面白いね。
そう思うと自然に顔が綻んだ。

「ネク君は、首元が暑そうだね。あと耳も」
「とらないからな」

多分ヘッドフォンのことを言っている。そう言われると取って欲しくなっちゃうんだけど、あいにく今の僕にそんな風にはしゃぐ体力はなかった。
だから短く返事するだけ。
彼が右腕で顔の汗を拭った。その姿は幼子のようでなかなか愛嬌がある。普段あんなに無愛想だから余計に珍しい物を見た気がして、数秒のうちに過去になってしまったのが勿体なく思えた。

「…店にでも入るか」
「ねえネク君、今のもう一回やってよ」
「は?」

一つ前の言葉から察するに、この暑さへの打開策を考えていたみたいだ。あのモーションは多分無意識にやっていたんだろう。
これ以上喋るのも面倒なので、なんでもないよと片手をあげる。立ち止まって怪訝な顔をしている彼の脇を擦り抜けて、僕はモルコへ入っていく。

(なんだか勿体ないかなあ)

冷房の利いた空気を肌に感じると、立ち止まって少し考えごとをした。

「おい、ヨシュア」

追って入ってきたネク君に、僕は笑みをつくる。
不満げな視線。でも僕は彼のそんな表情も嫌いじゃあない。
どうしてだろうね、死んでも体感温度は変わらないなんて。僕が取り留めもない話を振ると、機嫌の悪いネク君は「知るか」と一蹴して奥へ歩みを進めた。ついでに買い物していくつもりらしい。
後を追いながら、そういえばさっき自分が口元の汗を手の甲で拭っていたことに気付いて、僕もあんまり変わらないなって考えたら少し嬉しくなったりした。


(もっと続いたらいいんだけどね)

written by キイロ


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