すばらしきこのせかい

□Calling
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(ネタバレ/ED後)



夢を見た。詳細は憶えていない。けれど、簡単な言葉で表現するとしたらあの21日間によく似ていた。
いつものようにネクはベッドの上で体を起こした。床に足をついたところで脇にある時計を見る。五時過ぎだった。緩く朝日が差し込んで自分の頬をうっすらと照らしているのを感じた。
室内がいやに明るく、冬でもないのにどことなく寒かった。瞬きをひとつして顔を俯ける。頭が重いのは満足に寝られなかったためか、寝すぎたためか、わからない。はたまた夢のせいなのか。
蝉がなんでこんな街にいるのだろうと考えたことはあまりない。渋谷で生まれ、育ったからかもしれないが、それでも今まで疑問に思わなかったのが逆に不思議だ。ああ、でも東京とはいえ土や草木がないわけじゃないのだからいてもおかしくないのかと、朝の蝉の声を遠くに聞く。
どろり、とすら形容されてしまいそうな、イメージ。夏の渋谷の街。遠くに逃げ水が見えるアスファルト道路、行き交う人々、音響信号が奏でるチープな音楽。必死で走ったあの三週間、死神のゲーム。
重たい。鮮やかだった。絶望の色を見た気がしていた。今だってそう思う。

他人なんてどうでもいいと思っていた。あのころの自分を考えれば、あのゲームでの変化はおぞましい程だったと思う。
誰かと力を合わせるだなんて。消えていく人をみて心が痛むなんて。猜疑にまみれていても信じたいなんて。何かを救いたいなんて。
自分としての何かを手に入れて、今こうして生きている。メールの一つも送ればシキやビイト、ライムに会えて、当たり前に渋谷が存在している。多分これからも。
奇跡に近く、安心もしたし喜ばしくもある。けれどだからといって後悔が一つもないわけじゃない。

(アスファルトの、匂い)

危機感、焦燥、疑い、不安と悲しみ。
重たい。鮮やかだった。絶望の色をしていた。絶対的な、何かがあった。生きなければならないという何か、達成しなければならないという何か、守らなければならないという何か。強迫観念に近い「それ」は、ゲームに賭けた自分の存在意義だったのだと言われてしまえばそうかもしれないとも思うけれど。
(でもあれは、)あれは、
あれは。

(ヨシュア、お前だったんじゃないか。)




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