すばらしきこのせかい
□変わらぬ街並みの中で
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(ネクシキ・エンディング後・甘甘・むしろゼタ甘)
人と会っていて、こんなに楽しかったことがあっただろうか。
「ふう。」
ビイトとライムが去ってシキと二人きりになると、ネクはあからさまに溜め息をついた。
「どうしたの?」
シキは去った二人に向けて振っていた手を下ろし、ネクを振り返る。
「ん?…うん。…楽しいって、ケッコー疲れるな。」
「ふふっ。そうだね、私も少し疲れたかも。」
暗くなって街灯が点いた公園でベンチを見つけ、二人はそこに座った。
「良かったよね。ライム、ちゃんとビイトのことお兄ちゃんだって思い出して。」
「ああ。それに、夢も思い出したみたいだし。」
UGでのゲームを終え、目を覚ましてから初めて仲間と会った。
キツかったよな、とゲームのことを振り返ったり、他愛ない話で笑ったり。
皆、あれは夢ではなかったんだという確認と、今のこの時間も本物だということの確認をしたのだった。
「夢が何なのかは教えてくれなかったね。」
「エントリー料に取られてたぐらい大切なものなんだ。そう簡単に人に言えないだろ?」
ネクが“エントリー料”と言ったのを聞いて、シキは顔を赤くした。
そういえば、自分はネクのエントリー料だったんだ、と。
「どうした?」
少し黙ったシキの顔を覗き込むネク。
「…あの…さ、ネク…?」
「ん?」
「私の姿見て、どう思った? やっぱ、ちょっと引いた? ううん、いいの。正直に言ってくれていいからね。引くよね。うん、エリの姿は可愛いけど、私、こんなだし。」
俯いてそう言うシキを、ネクは軽く睨む。
「やめろよ、そーゆーの。」
「え…」
「やめたんじゃなかったのか? そーゆー後ろ向きなのは。」
「あ…う、うん。」
「…分かってるのか? お前、オレのエントリー料だったんだぞ?」
ネクは少し照れたように目をそらした。
シキはきゅっと目を瞑る。
「で、でもさ、やっぱ好みってあるじゃない? ホラ、中身は良くても、ちょっとなーとかさ。ゴメン、ちょっとタイプ違いすぎるわ、とかさ。そーゆー可能性だって否定しきれないじゃない? だから…」
「オレは、そんなこと、ない。」
ぼそっと答える。
シキは、そのネクの顔をじっと見た。
「ホント?」
「お前はお前だろ? それにイケイケな感じより、そのくらい落ち着いた感じの方がいい。」
「服は? この服装、ヘンじゃない?」
「似合ってる、と思うぞ?」
「ホントに?」
「ああ。それがお前らしさなんだなって分かった。」
うれしい、という呟きと共に固まってしまったシキの手を、ネクはそっと取った。
「シキ? ちょっとお願いがあるんだけど…。」
「?」
赤い顔で見上げる。
「抱き締めていいか?」
「えっ!?」
シキの顔はさらに赤みを増した。
「生きてるってコト、実感したい。」
「う、うん、いいよ。」
ネクは体を寄せ、大事そうにシキを包み込む。
「…生きて、いるんだな、オレたち。」
「…うん…生きてる。」
しばらくそのまま、二人は動かなかった。
そして、シキが口を開く。
「ネク、…………。」
名前を呼んだ後に何かを言ったようだったが、ネクにも届かないような小声で。
「ん? 何だ?」
体を離して顔を見ると、シキの顔はまだ真っ赤だった。
「聞こえなかったのならいいっ!」
くるっと向こうを向いてしまったシキに、ネクはさらに尋ねる。
「何だよ。気になるだろ?」
「い、いいの。また今度。」
「今度言えることなら、今言えばいいじゃないか。」
「いいのっ!」
「言えって。」
「いいのったらいいのっ!」
かたくなに言おうとしないシキの手を、ぎゅっと掴むネク。
「じゃあいいよ。言うまで帰さない。」
「えーっ!?」
いたずらっぽく笑うネクを上目遣いで見てちらっと目を逸らすと、公園の時計が目に入った。
「あ、もう帰らなきゃ。」
「さっきの、言ってからな。」
「や、やだ。」
「じゃあ帰さない。」
こんな風に意地悪な顔をするネクは初めてだと思いながら、シキは真面目に言った。