すばらしきこのせかい

□コンマ一秒の運命
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(義弥+音操/本編ラストシーン)



銃口は間違いなく彼の心臓に向いていた。撃てば彼は消滅。三週間前の、命日のように。
ただ一つ違うのはこの少年と共に失われるものがあること。渋谷の街。ネク君が守りたかったもの。

(興味ないけどね)

初めて見た元パートナーの涙にも動じることはなく、なぜならそれは飽くまでも想定内であったから。
ただこれだけ想われていたことを知って笑いたくなってしまう。

最後まで心を許さない態度をとり続けていた彼は、この一週間で随分変わったみたいだ。「分かり合える友達」、ね。

(素敵な関係だね)

結局自分は彼の信じていた「桐生義弥」ではなかった。だからそんな関係はもう夢想になってしまったけど。

――でもその夢想が許された時間が確かに一週間前にはあって、僕と君はそれぞれの目的の為に費やしてしまったけど、あの時君は僕を知ってくれたのもどうやら事実。

そしてもしこれからも渋谷が続いていくとしたら、憶えてくれるのも彼一人だ。

一度固めたはずの意志が消えていく、下ろされていく両腕を眺めていた自分の感情が ふと優しいことに気づく。

(甘いね)

それは彼にではなく自分に。それは彼へではなく自分へ。

ただ一瞬でも「桜庭音操」のいる渋谷の街をもう一度みたいと思っている自分を思い出してしまったから。


その雑踏にいる

それこそ零コンマ以下の世界で運命は常に選定されていく。
狂ったのではなく自然な流れだったんだ。

(もしその中で僕を憶えているなら、いずれ出会うのもまた必然だろう)


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ヨシュアむずい

written by キイロ


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