ガンダム00

□画策
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(ゲイリー話、ユニオンフラッグロールアウト直後/キリリク/k様のみお持ち帰り可)








 ユニオンの最新鋭機。
 その乗り心地は確かめてみたい。

 アリー・アル・サーシェスはゲイリー・ビアッジと名前を変え、ユニオンの軍人になっていた。

 もちろん戦争をすることが第一の目的ではあるのだが、どんなモビルスーツでも乗りこなす自信がある彼は、やはりその機体にも興味があった。
 それさえなければ敵対する側に雇われたって良かったのだ。

 とはいえ、ユニオン軍に入ってもすぐに最新鋭機に触れるわけがない。
 でっち上げた書類と口利きで、面倒な審査なしに軍人にはなれたが、階級は軍曹。到底手が届かなかった。




 ホールに歓声が上がり、皆が一斉に同じ場所を見た。
 吹き抜けの二階からその様子を覗き込み、ゲイリーは微かに笑んだ。
 目的の人物が入ってくる。
 歓声はその人物を出迎えていた。
 グラハム・エイカー少尉。
 今回の作戦で戦果をあげた英雄だ。
 初陣から数えて二桁の回数になって久しいが、まだ負けなしだという。
 エリート中のエリート。フラッグのパイロットである。
 栄誉の凱旋に沸くホールの中、一人冷めた表情で眺め、グラハムの様子を窺っていた。

 まだ当分騒ぎは収まりそうにないな。

 ゲイリーはふいっと視線を外し、その場を立ち去った。






 レストルームで一人佇むグラハムを見つけると、ゲイリーはつかつかと歩み寄った。
 カッと靴を鳴らして立ち止まり、敬礼をする。
「失礼します!少々お時間頂いてよろしいでしょうか!」
 大きなガラスを通して外を眺めていたグラハムは振り返り、きりっとした顔を向けた。
「…貴官は?」
「ゲイリー・ビアッジ軍曹です。お時間よろしいですか?」
 人当たりの良い笑みを浮かべ、ゲイリーが答えると、グラハムも笑みを返した。
「かまわない。」

 凱旋に対する敬意と称賛を並べると、グラハムは目を伏せて笑んだ。
「そう褒め称えられるのも居心地が悪い。おだてられて乗せられるのは好きではない。」
「そんなつもりはありませんよ。ただ、少尉の愛国心に頭が下がるばかりで。」
「聞き飽きた。私は私のやるべきことをやっただけだ。」
「そういう羨望も甘んじて受けるのが英雄の務めですよ。」
「…なるほど?」
「ついでに言わせていただくと、少尉の愛国心は私の良心に突き刺さります。」
 思いもよらぬ言葉を言われ、グラハムは眉をひそめた。
「それはどういう…君に私の愛国心をどうこう言われる筋合いは…。」
「いやもちろん。私が言っているのは、私自身の事でして。…入隊理由がね、邪なんですよ。だから、少尉の様な真っ直ぐな愛国心が眩しいんです。」
 ゲイリーは笑みを浮かべたままの顔をふいっと伏せる。
 邪、という言葉にグラハムは引っかかった。
「…それは聞き捨てならないな。…同胞としてはやはり同じ目的をもって戦いに挑んでもらいたい。聞かせて頂こうか、その理由とやら…。」
「…魅せられてしまったんですよ。あの機体、フラッグと言う奴に。そしてあのお披露目での少尉の乗りこなし方に。機体を手足のように使っていらっしゃる。是非、自分も乗ってみたい。その為の志願です。あれに乗るまではやめる訳には行きません。例え少尉に咎められたとしても。」
 視線を上げてグラハムの目を真正面から見ると、彼は驚きの表情を見せた。
 そして数秒の間の後、少し興奮気味に喋り出した。
「すばらしい。何が邪なものか。その為に非難覚悟で入隊するとは。あの機体はそういう情熱を持った者でなければ乗りこなせない。…そうか、魅せられたか。…わかった。ならば私から上申してみよう。君の様な想いであの機体に乗ってくれるなら、私は協力を惜しまない。」
 そう言ってゲイリーに背中を向けた。
「善は急げだ。言っておくがまだ私にはそれほどの権限はない。力になれるかどうかは上次第だ。しかし、叶うならなるべくいい機体を用意させよう。…カスタム機は譲れないがね。」
 ありがとうございます、と敬礼をしつつ、思った以上に上手く行ったことにゲイリーは苦笑を浮かべた。

 この男に対する時は気を張って臨まなくてはいけない。
 下手をすればペースに呑まれる。

 そう自分を諌める。






 凱旋したばかりの英雄の上申を無下に出来なかったのか、数日後、ゲイリーに異動の命令が来た。
「量産型の試作機だ。もちろん未使用。文句はあるまい?」
「文句だなんてお人が悪い。私には過ぎる待遇です。…これでは傷を付けることも出来ませんよ。」
「問題はない筈だ。君の模擬戦とシミュレーションの成績を調べさせてもらったよ。その階級章は君の実力に追いついていない。早く自分用にチューンして使えるようにしておいてくれ。すぐにでも実戦で使えるように。」
 ハハハ、と楽しげに笑ってグラハムは去って行った。
 その背中に、ボソッと呟く。
「やるねぇ、兄ちゃん。」
 見上げるとまだ傷のないフラッグがそびえ立つ。

 せいぜい遊ばせて貰うさ。
 このおもちゃで。








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