ガンダム00
□守るべき平穏
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(ビリーとグラハム/U期最終回後)
結局望む形にはなれなかったが、ビリーの心中は穏やかだった。
一度は恨んだ想い人と、どうであれ和解できたのだから。
彼女があの組織にいることは、今でも少し心配だ。
でも、世界が平和である限り、あの組織は動かない筈。
自分は自分のやり方で、今の平和を維持するよう努めればいい。
「…なんて言っても…兵器を開発しているようじゃ駄目かな…。」
研究者の悲しいさがだな、と思うのは詭弁か。
それでもオートマトンの様な殺人マシンだけは決して作らないと心に決めている。
人の手で動かし、人の心で戦えるものを作るのだと。
いつものようにパソコンに向かっていると、入口に人の気配を感じた。
ふいっと顔を上げると同時に声が掛った。
「ビリー、邪魔をしていいか?」
「ああ、グラハム。いらっしゃい、歓迎するよ。」
訪れたグラハムは軍服ではなくスーツ姿で、あの仮面は外していた。
その心変わりにビリーは優しく笑みを浮かべる。
「もうあの仮面はいらないのかい?」
グラハムはその言葉に居心地悪そうに顔を背けた。
「…少し思うところがあって…いや…違うな。…分からなくなってしまったんだ。」
その様子を彼らしくないと一旦思ってから、それは違うと頭の中で否定する。
彼は突き進み過ぎた。
だから今、考える時期に来ているのだろう。
そういう時間が必要だ。
ビリーは自分が座っているすぐ傍の椅子をすすめた。
「分からなくなった、か。僕にしてみれば世界は分からないことだらけだよ。」
そういう性分だから、研究なんて面倒な事をやってしまうんだろう。
「…そうか…?…私は何かを掴んだ気をしていたのだが…それは間違いだったようだ…いや…間違いだったのかどうかも掴めていない。」
「人間というのはそういうものさ。何度もつまずいて、何度も思い悩む。答えなんてないに等しい。」
グラハムが腰かけるのと入れ替わるように、ビリーは珈琲を入れる為に立ち上がった。
その背中を目で追いつつ、グラハムは小さく溜め息を吐く。
「サトリはないというのか?君は。」
「悟りを開いたつもりでいたのなら、僕は君に異議を唱えたいね。」
「…私は…いや、そうだな。こうして思い悩んでいるのが悟っていない証拠だ。」
しばしの沈黙が流れ、ビリーが席に戻った。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
そう言ってカップを受け取ったグラハムを一瞬違和感を持って見てしまう。
少し前の彼なら、「かたじけない。」ぐらいのことを言いそうだ。
そんな日本かぶれな部分も削がれたのだなと納得した。
「…僕はね、少し君に悪い事をしたと思っている。…いや、正確に言うと、伯父が迷惑を掛けたなと…。」
「迷惑?カタギリ指令が?」
何故ビリーがそんな事を言い出したのか全く見当がつかないといった様子で、グラハムはカップを傾ける手を止めた。
「もう指令ではないよ。ただの人として死んだ。」
「…自害なさったと聞いた…。葬儀は親族だけで済ませたそうだな。」
「うん、事が事だったからね。」